真珠湾攻撃から78年目:がん治療研究も無謀な戦いに学んでいるか?

2019年12月08日 22:00

今日、真珠湾攻撃から78年目の記念日を迎えた。そして、私は歳を一つ重ねることになった。私の生まれた年に、サンフランシスコ平和条約が発効し、日本は再び独立国としての道を歩み始めた。しかし、今でも横田基地の上空を含む空域は、米国の管制下に置かれている。飛行機が羽田を飛び立ち、真っすぐに西へ向かえないのも、西から羽田に向かうと、房総半島から回り込まなければならない理由もこれにある。

自分の国を単独で守ることができない現状では仕方がないのかもしれないが、自分の国を自分で守るための議論さえできないのが日本という国なのか?国会がワイドニュース化していて、劣化が著しいと思うのは私だけなのか?

がん治療も、多くの患者さんや家族は、自分の命を守るために自分のがんの状況を詳細に知ることもなく、標準療法という名の治療を受けている。私は、現在の標準療法は、20世紀の遺物に近いものであると思っている。遺伝子パネル検査を受けて、分子標的治療薬を見つけ出すことが21世紀の医療であると信じるならば、それぞれの患者さんのがんの個性を知り、その患者さんに合った治療を提供することが科学的であると理解できるはずだ。標準療法が目の前の患者さんに最適だと信じている人たちの科学リテラシーはどうなっているのだろうか。

個々のがんの個性を知るにはどうするのか?今や、個々の患者さんのがんの個性を垣間見るには、ゲノム解析、発現解析、プロテオーム解析等多くの情報を統合すれば、完全ではなくても、ある程度のグループ化はできるはずだ。人工知能を応用したCT画像の診断、病理画像の診断ができる時代になりつつある。

この流れで、がんの最適治療薬を見つけるために人工知能が応用できるはずだ。人工知能に入力するゲノム・遺伝子情報には、教師付き情報(あらかじめ正解=治療法による効果がわかっている情報)の場合や、まったく何の臨床情報も与えずにゲノム・遺伝子情報に基づいてがんを分類する教師なし情報を利用する場合などが想定されるが、やってみる価値があると信じている。

また、がんの個性を規定している情報は、AGCTという遺伝暗号の変化だけではなく、いろいろな遺伝子の働きを制御している要因の解析が不可欠である。それで、全ゲノム解析が必要だと言っている研究者は多いのだが、全エキソーム解析+遺伝子発現情報解析(トランスクリプトーム解析)をすれば、全ゲノム解析情報で知りたい情報などすべてカバーされるはずだ。

そして、これだけ世界中でゲノム解析が進んでいる状況で、日本で行われようとしている全ゲノム解析で新たな創薬対象がみつかるとは思えない。10年先の新薬よりも、今の抗がん剤治療や免疫チェックポイント抗体薬の使い分けなどが喫緊の課題だと思うが、そんな声は届かないようだ。

78年前、敵の力を考慮することもなく、無謀な戦争に突入して、日本は焦土と化した。米国の広大な領土とその豊かさの一片でも知っていれば、数百万人単位で亡くなる悲劇は起こらなかったはずだ。戦略・戦術のないがんゲノム解析で日本は欧米に追い付けるのか?78年前の無知と無謀が招いた悲劇を反省して生かすことができないものなのか?


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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中村 祐輔
医学者、内閣府SIPディレクター

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