東名あおり運転判決:「停止」は「運転」の一環ではないのか

2019年12月11日 06:00

東名高速で17年6月に起きたあおり運転による死傷事故は、後を絶たないあおり運転のせいか未だ記憶に新しい。6日に東京高裁でその控訴審判決があり、同高裁は、危険運転致死傷などの罪状を認めて被告を懲役18年(求刑懲役23年)に付した一審判決を破棄し、横浜地裁に審理を差し戻した。

NHKニュースより:編集部

危険運転致死傷罪の成立を認めたのに差し戻しとは解りにくいが、一審の横浜地裁が公判前の整理手続きで、裁判員抜きの裁判官だけの話し合いで「同傷罪は成立しない」と判断し、弁護・検察双方に見解を示したことを「裁判員法に違反する越権行為」と二審が断じたためとのことだ。

判決は一二審とも検察側の「重大な交通の危険を生じさせる速度」に「高速道路上では低速走行や停止(速度ゼロ)も含む」との主張を退けつつも、文句をいうために被害者を停車させたいとの「一貫した意思」であおったのだから「停車後の暴行までが密接に関連する一体の危険運転だ」と判断した。差し戻し審で判断が変わるかどうかが焦点だ。

が、筆者はそもそも一審二審が共に「被告の“停車行為”は同罪が規定する危険運転に含まれない」としたことに素朴な疑問を懐く。もし筆者がこの事件の裁判員だったなら、「同罪が規定する危険運転」には「速度ゼロ」も含むと主張するだろう。そう思う理由を以下に述べたい。

起訴要件と関係法令

事実関係はおおむね周知のことと思うので検察側の起訴要件から復習したい。それは次の4件。

  1. あおり運転の後に被害者に車から降りるように要求した強要未遂事件
  2. あおり運転の後に被害者の車を足で蹴ってへこませた器物損壊事件
  3. あおり運転について、被害者の致死傷についての主位的な危険運転致死傷と予備的な監禁致死傷
  4. あおり運転の後に被害者に車から降りるよう要求した強要未遂事件

次に「危険運転致死傷」の法令。「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成二十五年法律第八十六号)」の第二条(危険運転致死傷)の文言は次のようだ。(以下、太字は筆者)

次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。

四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

(一~三、五~六 省略)

ポイントは一連のあおり運転がこの四項に該当するか否かで、ここが黒ならその他は従たる争点になろう。結局、判決は「重大な交通の危険を生じさせる速度」に「速度ゼロも含む」との検察側主張を退けたのだが、果たしてそれは正しいのか。理屈をいえば「ゼロは正でも負でもない実数」だ。

そこで「自動車」、「運転」、「駐車」、「停車」の定義も見てみる。それらは「道路交通法(昭和三十五年法律第百五号)」の第二条(定義)にある。

九 自動車 原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であって、原動機付自転車、軽車両及び身体障害者用の車椅子並びに歩行補助車、小児用の車その他の小型の車で政令で定めるもの(以下「歩行補助車等」という。)以外のものをいう。

十七 運転 道路において、車両又は路面電車(以下「車両等」という。)をその本来の用い方に従って用いることをいう。

十八 駐車 車両等が客待ち、荷待ち、貨物の積卸し、故障その他の理由により継続的に停止すること貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止を除く。)、 又は車両等が停止し、かつ、当該車両等の運転をする者(以下「運転者」という。)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態にあることをいう。

十九 停車 車両等が停止することで駐車以外のものをいう。

用語の定義が曖昧だ

「駐車」の定義は懇切だが「自動車」のは曖昧。ロングマン辞典の「a vehicle with four wheels and an engine, that can carry a small number of passengers」を借りれば、差し詰め「車輪と原動機を有する、人や荷物を運ぶ乗り物」となろう。「運転」も「本来の用い方」の定義がないから定義になっていない。

自動車の「本来の用い方」を定義するなら、例えば「人や荷物をある地点からある地点に運ぶこと」ではなかろうか。「駐車」の定義にも「車両の客待ち・・・」の前に「次に本来の用い方をするまでの間、」とでも入れれば、さらに明確になるように思う。

筆者が「自動車の運転」を定義するならこうしたい。

自動車を、本来の用い方、すなわち、人や荷物をある地点からある地点に運ぶなどの目的のために、駐車の状態から始動させ、目的を終えて駐車の状態に戻すまでの一連の行為

これなら「停止」は「駐車以外のもの」だから「運転」に含まれる。となれば「重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」に「停止」=「速度ゼロ」も含まれ、「貨物の積卸しのための停止で五分を超えない時間内のもの及び人の乗降のための停止」であろうが「運転」中となる。

そもそも渋滞に陥った高速道路の、ちょっと進んでは止まりを繰り返す様子を思い浮かべれば、「停止」が「運転」に含まれないなどという話になるはずがない。まして本件は高速道路の追い越し車線でのあおり運転の末の「停止」、これを「危険運転」でないというのはどうにもおかしかろう。

参考までに前記の「法律第八十六号」の第五条(過失運転致死傷)は、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は・・」となっているので、この定義はこれにも有効だ。坂道でブレーキを引かずに「停車」し、無人の車が動いて人をはねた場合も明確に「運転」中になる。

さて、今後行われる差し戻し審では新たな裁判員が選任されることだろう。その方々にあってはどうか裁判官の意向など忖度することなく、「停止」=「速度ゼロ」が「運転」に含まれるとの主張をして、それをも勘案した量刑をこの被告に下してもらいたいと思う。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。

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