カタルーニャで独立反対派のパン屋が不買運動の被害に

カタルーニャの独立を主導する州政府を応援している民間組織「共和国を守る会(CDR)」「民主ツナミ(Tsunami Democrátic)」「カタルーニャ国民会議(ANC)」「文化オムニウム(Ómnium Cultural)」などが独立を主張して活発な活動をしている。時に暴力を伴うこともある。10月に起きた暴動化した抗議デモもそのひとつである。

一方の独立反対派にはそれを支える民間組織は存在せず、時に集会を開いて「カタラン人でありスペイン人でもある」と主張しながら市街を平和的に行進するといった行動しか実行していない。彼らはいつも独立支持派の一部過激グループから被害を受けるのが常である。

だからそれを恐れて独立反対派の市民は「自分は独立反対派だ」という表明を避けるようにしている。嘗てのナチスドイツでユダヤ人が密かに生活していたのと同じような事態を一部彷彿させている。

今月4日にも独立反対派の市民が被害を受けるという事件が起きた。被害を受けたのはカタルーニャでパンのチェーン店を経営している独立反対派のジュセプ・ボウ社長である。

El Confidencialより引用:編集部

当日、バルセロナの国際会議場でスペインのフェリペ6世国王と長女のレオノール王女が出席してのジロナ王女賞の授与式にボウ社長は招待された。会場にはタクシーで向かった。というのは、彼の車が投石の被害を受けてガラスが破損して修理に出したからであった。

目的地に到着して会場に向かおうとした彼を独立支持派の市民が道を塞ぎ、彼を取り囲み暴言を吐き、唾をかけ、暴力を振るうという被害を受けた。これらの乱暴行為はCDRが背後から操っている場合が多く、重要なイベントがある時は独立支持派の市民の行動を私服警官が彼らに交じって監視するのが常である。その私服警官が彼を救出。暴行を止めようとしたボウ社長の腕に青あざが生じた程度で身体に損傷はなかった。(参照:ondacero.es

現在のカタルーニャの独立問題が如何に市民の調和を乱しているかを如実に示すのは、バルセロナのアダ・コラウ市長がこの授与式に出席しなかったことだ。彼女は共和国支持者だからである。

スペイン国王が出席しての公式の場にバルセロナの市長が出席を辞退するということは異常でしかない。しかし、それが今のカタルーニャでは受け入れられているのである。恰も独立気運の熱病に罹ったかのようであるが、その熱がいつ引くのか今のところ不明だ。

ボウ社長が目立って被害を受けるようになったのは2015年に独立反対派の企業経営者が集まったカタルーニャ経営者連合の会長になった時点からである。更に、彼への攻撃が度を増すことになったのは昨年12月にバルセロナの市会議員に国民党の候補者リストのトップとして選挙に臨んでからである。

ボウの父親はパン屋を営んでいた。父親から教わったパンづくりを発展させて、1985年からバルセロナ市内を始めカタルーニャ州に12店舗のパンのチェーン店「Forn de Pa BOU」を経営するまでになった。現在、正社員は80名。ボウ社長のパンはスペインでおいしいパン85店の中にリストアップされている。

Panaderias BOUツイッターより:編集部

ところが、カタルーニャでプロセスと呼ばれている独立気運が高まるにつれて、ボウのパンは独立反対派が作ったパンだということで、独立支持派の住民がボウのパンを買うのを敬遠するようになったのである。また、独立反対派の住民も周囲からボティフレール(スペイン王家支持派)のパンを買っていると非難されることを恐れて買わなくなっていった。

「2017年の秋は最悪だった。少し観光者の訪問で持ち直していたところであるが、小康状態といったところだ」とボウ社長が取材に答えた。「(12店舗ある)一部の店は50%売り上げが落ちた。耐えられるだけ耐えるつもりだ。閉店する意向は全くない。しかし、店のどれかは維持できなくなる時が来るかもしれない」と一抹の不安を表明した。

「店が非難を受けない日はない。店に入って店員に『お前の親分はファシストだ』と批判する。我慢ならないことであるが、私の社員がそれに耐えるてくれている」「運よく、社員は私を支援してくれている」「独立支持派によってボイコットされてから売上げは32%落ちた。社員の給与として私の不動産会社から100万ユーロ(1億1800万円)融通した」「私の財産、福祉、ライフを失っても、私の主義は守り続ける」と述べて固い決意を表明した。

しかし、彼の会社ハイメ・ボウ株式会社の決算は厳しくなっている。2017年度は149,926ユーロ(1710万円)の赤字、2018年度は赤字は半減したが71,093ユーロ(840万円)の赤字だ。2年間で円換算で2550万円失ったことになる。今年も独立問題は続いていることから赤字を覚悟しておく必要がある。

カタルーニャが独立すれば、カタルーニャ以外のスペインの他の自治州からカタルーニャの商品の不買運動が必ず起きるのは必至であるが、カタルーニャにあって独立反対派の生産品が被害を被っているのである。

Panaderias BOUツイッターより:編集部

ボウ社長が政治に首を突っ込むようになったのはカタルーニャが分離する危険性をがあることからであった。しかし、カタルーニャが独立国家になったことは一度もない。しかも、カタルーニャでは6割の市民が独立を望んでいないということをボウ社長は強く主張している。(参照:elconfidencial.com

「私はビック市生まれで、足のつま先から頭のてっぺんまでカタラン人だ。カタラン人であるためにスペイン人でもある。スペイン人以外の何者でもない。それをあの人たちに言ってやったが通してくれなかった」と述べて彼の通行を妨害した人たちに憤慨を表明した。
(参照:cope.es

CDRの過激派グループ(ERT)の一部がつい最近逮捕された。爆薬などをつくって11月10日の総選挙日に治安警察支部などに爆薬を投下することを計画していたことが明らかにされたからである。バスク地方でテロ活動をしていたエタと同じ歩みを辿って行くのではないかという懸念さえさせている。

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家