米教会司教が“うつ病”で休職申し出

コンリィ司教(ツイッターより)

バチカン・ニュース独語電子版14日が報じた記事を読んで驚いた。米ローマ・カトリック教会リンカーン教区のジェームズ・コンリィ司教(64)がうつ病のため休職を申し出たというのだ。もう少し具体的に言えば、司教はうつ病になり、不安恐怖症の症状を呈し、数カ月前から不眠と耳鳴りが続く症状だという。

同司教は教区関係者宛てに書簡を送り、「しばらく休職をお願いしたい」と述べている。司教は、「教区関係者と相談した結果、自分はうつ病の精神的疾患に罹っていると判断し、治療を受けるべきだと考えた」と説明している。

このニュースを読んで、①教区司教がうつ病になったこと、②バチカン・ニュースがそれを隠蔽せずに報道したこと、の2点に少なからず驚きを受けた。司教はカトリック教会では枢機卿に次ぐ高位聖職者だ。その聖職者がうつ病になり、救いを求めている。誰に救いを求めているのか、というと、精神科医と医者が書いてくれる処方箋だ。

うつ病は精神的疾患だ。患者が司教だろうと、工場労働者だろうと、危険性は同じだ。警察官の中で燃え尽き症候群(バーンアウト)が広がったことがあった。その意味で、コンリィ司教がうつ病だから休職を申請した、ということは極めて当然のプロセスだ(「警察官の『燃え尽き症候』が広がる」2011年7月20日参考)。

司教の病歴を見ないと判断できないが、司教もバーンアウト症候群(燃え尽き症候群)に陥っているのではないか。バーンアウトにかかる現代人が増えている。実績や成果を追及される企業責任者、スポーツ選手にはバーンアウト症候群に陥る人が増えてきた。ドイツのプロサッカー第1部ブンデスリーグに所属していたゴールキーパーが2009年11月、うつ病から自殺したことがあった。また、ウェールズ代表監督が2011年11月に同じようにうつ病から自殺している(「独サッカー代表GKの自殺」2009年11月13日、「欧州サッカー界に蝕む自殺、うつ病」2011年11月29日参考)。

コンリィ司教の休職の申し出はその意味で正しい対応だろう。司教は、「自分の精神が問題というより、病気だから治療が必要だ」と述べている。バーンアウトが教会関係者の中にも広がってきたのではないか。

コンリィ司教が所属する米カトリック教会は目下、聖職者の未成年者への性的虐待問題が大きなテーマであり、その賠償金の支払いで破産宣言を余儀なくされる教区さえ出てきたことはこのコラム欄でも紹介した(「『債務超過』で破産危機に陥る米教会」2019年9月27日参考)。

コンリィ司教が所属する教区の状況が分からないから多くのことは言えないが、やはり聖職者の性犯罪問題とその対応問題が関わっているのではないか。教区司教としてそれらの問題と向かい合い、解決を模索する日々の仕事は精神的にも負担が大きいはずだ。

区別しなければならない点は、バーンアウト症候群、うつ病などの精神的疾患と神への信仰は別問題ということだ。敬虔な神父でもがんになるように、信仰深い聖職者もやはりバーンアウト症候群やうつ病にかかり、苦しむことがあるという点だ。

ちなみに、バチカンは1999年、1614年の悪魔祓い(エクソシズム)に対して新しい儀式を提示したが、その主要な改正点は、悪魔の憑依現象と精神的疾患の区別をつけることにあった。精神的疾患を悪魔が乗り移ったとして悪魔祓いをするといった事態が出てくるからだ。カトリック教会では過去、そのような不祥事が多くあった(「ローマ法王『悪魔は君より頭がいい』」2017年12月15日参考)。

高位聖職者もうつ病になり、聖職を履行するエネルギーを失うことがあるだろう。ストレスが多く、仕事が山積している状況で聖職を履行することは神に帰依する聖職者だとしても大変だろう。バチカン・ニュースがコンリィ司教の精神的疾患問題を隠さず報道したのは、聖職者の現状を伝えたいという思いがあったからだろう。

南米出身のフランシスコ教皇がある日、突然、精神的疾患に陥り、うつ病にかかる危険性も完全には排除できない。精神疾患に対する理解を深めるという意味でコンリィ司教のうつ病報道は非常に重要だ。コンリィ司教の早期快癒を祈る。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年12月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。