神奈川県文書情報流出事件:ブロードリンク社のCSRをどう考えるか?

2019年12月22日 06:00

かんぽ生命事件よりも、関電金品受領事件よりも、はるかに大きな企業不祥事である「神奈川県文書情報流出事件」に新しい動きがみられました。昨日(12月21日)、神奈川県はブロードリンク社元従業員によって転売された廃棄HDD18個全ての回収を終えたことを発表しました(時事通信ニュースはこちらです)。

9日に行われたブロードリンク社の記者会見(NHKニュースより:編集部)

ヤフーさんの協力を得て、オークションで落札した方々から回収できたことで、神奈川県としては「安全」を取り戻すことは不可能でも、ひとまず「安心」は取り戻すことができました(とりあえず良かったですね)。

ただ、神奈川県の行政文書事件はひと段落としても、当該元従業員がオークションで販売した残りの記憶媒体3,886個(3,904-18)については、どこの行政機関もしくは民間団体が廃棄を委託したものか、未だ調査中ということで謎に包まれています。

当然のことながら、ブロードリンク社の取引先(ブ社に廃棄を委託した者)が使っていたものであり、日経ビジネスニュースによると、ブロードリンク社の専務さんは「どこの会社が使っていた記憶媒体なのか、判明次第事実を公表する」と記者発表しています。しかし、今回の神奈川県のように、全ての記憶媒体が回収できれば良いのですが、時間が相当経過した後に「◎◎会社の文書が復元される状況で誰かに転売されました」と発表されれば、これはたいへんな事態になるでしょう。

ましてや、今回の神奈川県行政文書事件のように、直接の廃棄委託は神奈川県ではなく富士通リースさんだったわけですから、ブロードリンク社から委託元の名前が発表された場合には、当該会社がさらに「当社からリースで使っていた企業さんの名前を公表すべきか・・・」と悩むケースも想定されます。本当に企業の存亡に関わるような大問題です。

いずれにせよ、ブロードリンク社が、真摯に記憶媒体廃棄の委託元を発表すれば、社会を不安に陥れることは間違いないと思います。しかし、情報漏えい時に備えて、漏えいのおそれのある個人情報の被害者が自衛策をとり、被害を最小限度に抑え得る可能性がある以上、公表を控えるわけにはいかないようにも思います。

ブロードリンク社の社会的責任として、転売された記憶媒体の特定を急ぐことは当然としても、その先に非常に悩ましい判断が待ち構えています。公表前にブロードリンク社から事前連絡を受けた廃棄委託元の民間企業(あるいは行政機関)は「御社の名前を公表したい(後の対処はよろしく)」と言われたら拒否できないですよね。

ブロードリンク社の調査によって判明した廃棄委託先企業(行政機関)としては、今回の神奈川県の対応と同じく、安全性はもはや回復できないけれども、被害者の「安心」回復に向けて最善の努力を尽くす必要はあります。残りが3,886個ということですから、ひょっとすると気の遠くなるような作業かもしれませんが、これが正に企業の社会的責任です。

作家の東浩紀氏がHDD転売事件に象徴される防ぎようのない『嘘』社会」なるエッセイをAERAに掲載されていますが、まったく同感です。消費者・国民にとっては「信頼社会」のもとで安眠して「知らなかったほうが幸せなこと」もあるのかもしれません。しかし、いったん知ってしまった以上、企業は「社会の風向きが変わった」ことを敏感に感じ取らなければ批判の矛先が企業に向けられることになります。本当におそろしい不祥事が発生しました。今後のブロードリンク社の動向に注目しておきたいと思います。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。

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