パナソニックとホンダ、老舗大企業の苦悩

最近、家電製品でパナソニックというブランドを意識しなくなった気がします。One of Themでしかありません。もともと松下という社名から「マネシタ」といわれたように独自色を発揮する社風ではありません。かつては先陣の製品を徹底的に分析し、それより優れた商品を提供するという方針を持っており、ある意味、日本企業の典型的存在でありました。

(各社HPから:編集部)

(各社HPから:編集部)

そのパナソニックは今、会社の色が出せずに苦戦しています。売り上げは伸びず、社長就任8年目になる津賀一宏氏は苦悩の連続のように見えます。11月末に半導体部門を売却する一方であれだけ力を入れるはずだった自動車向け電池ではテスラに懲りたのか、熱意が上がってきません。生活家電では面白い商品も出ているようですが、これは冒頭の「マネシタ」のポリシーそのもので誰かが考えたアイディアをより使いやすくそしてパナソニックのブランドとして世に出すという流れを変えるものではありません。

日経に強烈に印象に残る記述があります。「『パナソニックは中国の古い国有企業みたいですね。本来ならもう引退してしまっている会社じゃないですか』。今年3月に北京大学で講演した際の質疑応答では、ある学生からこう言われショックを受けた」という津賀社長の弁には成長に向けたプランについて苦心している会社経営が見て取れます。

一方のホンダ。日経ビジネスの特集に「跳べ!ホンダ、普通の会社にならないで」となにか訴えるような22ページにもわたるレポートが目に留まります。ホンダの場合、記事にもあったのですが、大きなヒットが時々出る会社であります。

アコード、シビック、アシモ、オデッセイ、フィット、NBox、そしてホンダジェットでしょうか?確かに個々の商品は顧客のハートを捉え、ホンダらしい工夫が随所に見られますが、大企業としての経営の観点からは散発的なうえにイメージを作りにくい存在です。

例えばホンダには高級車ブランド「アキュラ」というのがあるのですが、北米にいても存在感が薄まってきています。今年1~6月の北米でのアキュラブランドの販売台数はざっくり7万3000台、一方、ライバルのレクサスは13万5000台でほぼ2倍の差をつけられています。自動車というのは一般の人の目にどれだけ止まるか、という視点のマーケティングもあり、その観点からすれば単年度販売数が倍半分の違いがあると過年度も含めて街を走る車の総数としてのアピアランス効果につながるため、販売力には大きな差が生じてしまうのです。

なぜ、ホンダは目立たないのか、理由は日経ビジネスが指摘するように利益を生み出すオートバイで食べさせてもらっている状態になっているから、というのはある意味、的を得ているように感じます。

パナソニックの都賀社長もホンダの八郷社長も手を拱いているわけではありません。では大きすぎてコントロールできないのか、といえば近年のソニー(平井氏→吉田氏)やトヨタの豊田社長の経営手腕は大変優れており、大企業なのに見事な采配であります。「大企業を統治できるカリスマ性」、これなのかもしれません。

豊田社長は御曹司として胡坐をかいているのでしょうか?多分、自動車業界の中では珍しくテストドライバーも兼ね、最も現場に近く、強い危機感を持ち、異業種との接点を持ちながら次世代の自動車業界があるべき道を必死に探しているというのが私の持つイメージです。それは創業家としての「絶対に譲れないプライド」そのものでもあります。

我々はいつまでも松下幸之助、本田宗一郎を崇めてばかりいられないのです。そしてその会社が歴史の中で変貌する中でそのDNAは大事にしながらもあまりにも創業者色に経営が足を引っ張られてはいけないと考えています。

私はパナソニックもホンダも今までと違うカラーになってもよいと思っています。それを市場が受け入れ、ビジネスとして成功できるなら松下氏も本田氏も天国から笑いかけてくれるはずです。

遠慮はいらない、これが大企業経営者が心に刻む言葉ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月23日の記事より転載させていただきました。