注目度が増す「自己創設のれん」に対する上場企業の法務・会計リテラシー

今朝(12月24日)の日経新聞では、1年間にわたって日経が特集してきた「Neo Economy」の総まとめ記事が掲載されていました。私の場合は3月15日の「経済教室」(日本経済研究センターの研究員の方の論稿)、6月8日の米国MITのヒダルゴ准教授のインタビュー記事などがとくに興味深く、中長期的な企業価値を重視する機関投資家が、企業の「有形資産」ではなく「無形資産」を評価する時代になったことを痛感しました。

小太郎wan/写真AC(編集部)

今朝の特集記事に添付された図表でも、世界企業の時価総額のうち、77%が非開示の無形資産とされ、米国では61%の無形資産がGDPに計上されていないことが掲載されています。

また、「無形資産」は「情報化資産(ソフトウェア、データベース)」、「革新的資産(R&D、知財、デザイン)」そして「経済的競争力(人財、ネットワーク、組織変革)」に分類されるわけですが、前の2つは1年で20%ずつ陳腐化していくので、もっとも注目される無形資産は「経済的競争力」です。日本企業の生産性向上のカギを握るのも、この経済的競争力です。

しかしながら民間GDPに占める無形資産投資の内訳をみますと、プリンストン大学の清滝教授が憂うように(9月18日日経朝刊参照)、日本は他の先進諸国と比較して極端に「経済的競争力」への投資が少ないことがわかります。AIやIoTによって問題解決能力のコモディティ化が進む中で、経済成長に必要なのは問題発見能力(独創性と社会的なつながり)と言われることに強く賛同します。まさに「自己創設のれん」への注目度が高まるものと思います。

ではこの「自己創設のれん」に日本の法務(会社法、金商法、経済法、労働法、情報法)や会計(会計基準、監査基準)はどう対応していくのでしょうか?無形資産(とりわけ経済的競争力)への投資活動が高まる中で、今後の法務、会計の有用性(発展性?)に関する、企業実務上の重要な課題ではないかと思います。

「無形資産」の担保評価は難しそうなので、金融法や市場法なども研究対象となりそうですね。来年はこのあたりの問題について、ブログでいろいろと綴ってみたいところです。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年12月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。