本当に難しい後継者選び

岡本 裕明

日産の関潤副最高執行責任者を自社に引き込む永守重信会長は後継者選びで三度目の正直となるようです。日経には「日本電産の永守氏は任せられるか 後継問題再び」とあります。永守会長はすでに呉文精元代表取締役副社長、吉本浩之現社長を後継候補として試験したのですが、ともに氏が満足できる形ではなかったようです。私はシャープの社長から転じた片山幹雄氏(現代表取締役副会長)もその候補の一角ではなかったかと記憶しています。

(永守会長:日本電産HPから)

(永守会長:日本電産HPから)

永守氏はゼロからモーター事業を次々と買収し、売り上げ2兆円に手が届きそうなところまで成長させました。氏の自叙伝も読みましたがストイックで人生のすべてをビジネスにささげたといってよいでしょう。週末は社員からの報告に目を通し、丹念に返事をしていくそのスタイルは創業者にしかできない自分が育てた会社への愛であります。

この愛は起業をしたことがないとなかなかわからないものです。自分が育ててきた会社がどれだけかわいいか、自分の家族と同じかあるいはそれ以上の愛着を持つからこそ、会社は伸び続けるし、実務を誰かにバトンタッチする場合は自分が思い描いている形で進んで欲しいと願うのは当然であります。それゆえ、どれだけ会社が大きくなっても例えば経費は極小に抑えたい、と考えるのも起業家によくみられるパタンです。たしか永守氏もかなり質素な生活だったと何かで読んだことがあります。その発想を継承できないと実は永守氏のような会社の後継者は生まれないとみています。

例えば飛行機のビジネスクラスやファーストクラスを使うのは当たり前、アメリカならプライベートジェットが普通といわれる時代ですが、割とカリスマ経営者が飛行機はエコノミーに乗っていたりします。ビル・ゲイツやイケヤの創業者イングヴァル・カンプラードはプライベートジェットどころかエコノミークラスに乗るといわれています。アマゾンのジェフ ベゾスは役員でもエコノミークラスに乗せます。ウォーレン・バフェット氏が質素な生活をしているのも有名です。フェイスブックのザッカーバーグ氏はVWのワゴン、マニュアル車とかホンダ フィットもに乗っていましたね。

日本の大手企業は部課長以上になると出張にはビジネスクラスが社内規定で利用できるところも多いと思います。私もゼネコンに勤めている時はそうさせて頂きました。ですが、独立してからはまずエコノミーです。かつては溜まったマイルのポイントでビジネスに乗っていたこともあるのですが、どうせ飛行機では酒が飲めない体質ですし、2食のうち1食はスキップしているので今ではまずエコノミーオンリーです。

創業企業の後継者の何が大変かといえばその質素で倹約なスタイルに慣れなくてはいけないことであります。今までビジネスやファーストクラスに乗り、高級料理店しか行ったことがなく組織の中で勝ち抜くことが第一義だった人には仕事以上にこの点が思った以上にハードルなのです。なぜ、倹約なのか、といえば会社を磨き輝かせるために自分を全て捧げられるかという立ち位置がそうさせるのです。つまり自分自身を会社と同化させるのです。まさに会社のために24時間働き、命を捧げられますか、という決意であります。仮に利益が何億、何十億とあっても自身の富には興味がないのはサラリーマン社長ではなかなか持ち合わせられない感性なのです。

では大きな会社になったカリスマ創業者はどうやって引退の花道を飾ることができるのでしょうか?私は傘下の事業それぞれに社長を置くことで一人ひとりの社長のカバーエリアを小さくし、創業者はホールディング会社のオーナーにとどまり、株主としての影響力を死ぬまで持たせ、そののちは創業家としての睨みを効かせるしかないと思います。傘下の事業が10、20とあればそれだけ社長がいるので、社長同士で競わせるのです。その結果として同じ社内の中で実力あるものがのし上がってくるという再競争を行わせるのは長期的にみて有効な手段だと思います。

売り上げ2兆円にも上るような会社にある日突然来てコントロールできるほどの人材は日本にはそうはいないでしょう。後継者選びに悩む創業社長は他にも孫正義、柳井正氏らの名前が取りざたされます。あれだけの規模になると分割統治しかないと思います。

私は永守会長は三度目の試みも失敗する(業績と創業者の満足度は必ずしも一致しない)とみています。後継者選びのお膳立てと後継候補の立ち位置が違う気がしています。さてどうなることやら。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年12月27日の記事より転載させていただきました。