金正恩氏の贈物「豊山犬」の不祥事

2020年01月07日 11:30

米軍の無人機がイラクの国際空港を空爆し、イラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官が殺害されたことを受け、米国とイラン両国関係が再び緊迫化してきた時、「犬」の話を書き出した当方はお人好しのコラムニストと思われるかもしれないが、どんな冷笑を受けても今回は「犬」の話をするつもりだ。朝鮮日報日本語版が4日付で報じていた「豊山犬」の話だ。

金正恩委員長から文在寅大統領に贈られた豊山犬(KBSニュースから)

同紙によると、北朝鮮の金正恩氏が昨年、韓国の文在寅大統領に2頭の豊山犬をプレゼントしたが、その2頭から生まれた豊山犬ヘンニムが昨年12月末、散歩の途中出くわした犬と喧嘩を始め、それを抑えようとした担当者の手を噛んだという話だ。

この短い記事を読んだ当方は、この出来事を記事にした朝鮮日報記者の筆力に感動し、その記事に隠された「記者の目」に少なからず驚いたのだ。「豊山犬」の話には南北両国指導者の関係が巧みに描かれているのだ。

豊山犬は朝鮮語で「プンサンゲ」と呼ばれる北朝鮮豊山郡原産の狩猟用犬。朝鮮新報によると、「豊山犬は勇猛性と圧倒的なパワーを有し、並外れた胆力を持つ。わが民族の宝」という。秋田犬より小さく、柴犬に似ている。

金正恩氏は多分、金正恩氏の父親、故金正日総書記が2000年6月、訪朝した金大中韓国大統領に犬をプレゼントしたという話を聞いていたのだろう。今回はそれを真似ただけかもしれない。あるいは、世界の指導者が相手のゲストに自国の犬をプレゼントするトレンドを知って、流行物好きな金正恩氏は同じ事をしてみたかったのかもしれない。

文大統領は豊山犬をみて頬を緩めたはずだ。そして2頭の豊山犬に問題のヘンニムが生まれたのだ。ヘンニムはしばらく親のもとでスクスクと育った後、昨年8月に「平和のシンボル」として延坪島に派遣されたわけだ(2010年11月、朝鮮人民軍と韓国国軍が砲撃戦を展開した舞台)。

事件の状況を朝鮮日報記者の記事から報告する。

「甕津郡と韓国政府関係者によると、事件は昨年12月末、延坪島にある平和安保修練院の関係者がヘンニムを散歩させていた時に起こった。甕津郡の関係者は『担当者がヘンニムを散歩させて戻る際、周辺住民の飼い犬とけんかをはじめた。これを止めようとした際に担当者はヘンニムに手をかまれた。相手の犬はゴールデンレトリバーで、けんかの際に耳を負傷した』という」

事件は即ソウルの青瓦台(大統領府)に報告された。記者は事件を聞いた文大統領がどのような反応を示したかは書いていない。内外の難問に直面している文大統領は多分、豊山犬の不祥事にコメントする余裕がなかったのだろう。その代り、韓国政府関係者が「元々猟犬の習性を持つ豊山犬は、大人になるとたまに人間を噛むことがある」とコメントしている。

記事を読んでいると、ヘンニムに金正恩氏のイメージが重なってくる。金正恩氏と文大統領の関係にまでそのイメージが広がる読者がおられたら、その読者は朝鮮半島ウォ―チャーと呼ばれてもおかしくはないだろう。

大統領就任以来、南北融和路線を推進してきた文大統領は最近は肝心の金正恩氏から無視され、煩いとまで言われ出した。「金正恩氏の広報官」と呼ばれ、まんざらではなかっただけに、文大統領も失望を隠せられない。そこに金正恩氏から贈られた豊山犬から生まれたヘンニムが世話係りの担当者の手を噛んだという知らせを受けたのだ。文大統領は複雑な心情となっただろう。

ちなみに、ヘンニムが喧嘩した相手犬はゴールデンレトリバーだ。大きな犬だ。優しい犬だが、無法な犬には怒る。ヘンニムは猟犬だから、喧嘩には自信があった。両犬の喧嘩はかなり激しいものとなったはずだ。どちらかは不明だが、「喧嘩の際、耳を負傷した」という。

ここまで書いてくると、ヘンニムとゴールデンレトリバーが金正恩氏とトランプ米大統領のイメージと重なってくる(トランプ氏は大統領に就任して初めてホワイトハウス入りした時、執務室のカーテンをゴールドに変えさせた)。

金正恩氏は平壌の執務室で、文氏にプレゼントした豊山犬から生まれたヘンニムが担当者の手を噛んだというニュースを聞いたはずだ。朝鮮日報記者は、金正恩氏からコメントを取ることはできなかったようだ。北国営メディアも「民族の宝」豊山犬の不祥事については何も報じていない。

当方の推測だが、金正恩氏は延坪島にいるヘンニムに向かって、「なぜ死ぬまで戦わなかったのか」と檄を飛ばしたのではないだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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