国家主権の侵害を許したのは危機管理網の甘さ

2020年01月08日 06:01

逃亡支援のプロ組織の周到な準備

元日産会長のゴーン被告は逃亡劇を通じて、日本の危機管理網が隙だらけであることを教えてくれました。ゴーン被告の功績というのか、日本にとっての教訓というのか、そう絶句するしかありません。血で血を洗う国際紛争の現場から遠く離れた極東の島国だからか、考え方が甘すぎるのです。

日産サイトより

まず森法相です。年末に逃亡事件が発生し、奇々怪々、虚虚実々の海外発情報が錯そうする中で、日本政府は沈黙を続けました。やっと仕事始めの5日「保釈中の逃亡が正当化される余地ない。不法出国したと考えられ、誠に遺憾」と、コメントしました。

なんで今頃になって。遅すぎる。日本の正月休みのサイクル合わせて、国際情勢や情報戦が展開されると、錯覚しているような印象です。甘い。「遺憾」と思うのは私たちです。茂木外相も「刑事手続きが適正に行われるよう関係国、関係機関としっかり連携していきたい」と。これも何を今さらです。

「日本の主権を揺るがすゴーン被告逃亡」(日経社説、3日)、「日本の司法制度をないがしろにする行為であり、断じて容認できない」(読売同、5日)、「違法出国したことは間違いない。断じて許されるものではない」(朝日同、7日)と、メディアも被告に怒りをぶつけています。

「どうぞ密出国して下さい」か

「日本の主権の侵害」は逃亡劇の重要な論点でしょう。「海外渡航を禁止した保釈条件に違反した」「裁判、出入国管理など日本の主権や法治を踏みにじった」という批判はその通りです。実際はどうだったか。確からしい情報を組み立てると、「日本の危機管理網は隙だらけなので、ゴーンさん、密出国できますよ」という実態が分かる。主権侵害は日本自身が許した結果となります。

虚実が入り混じった情報の中で、米紙ウオールストリート・ジャーナルは、ギョッとするような記事を書きました。「逃亡支援チームは複数の国籍の10-15人で構成され、数か月前から計画を準備していた。チームは日本を20回以上訪問し、国内の10か所以上の空港を下見し、関空に弱点があるのをみつけた」。ええっ、なんだって。

海外では誘拐、人質事件が少なくなく、こうした救出組織が存在するのでしょう。でも、なぜこんな機密のはずの情報が報道されるのか。「ゴーン救出」に成功したので、自分たちの存在を宣伝するのに、いい機会だと思い、米紙にリークしたのか。元米特殊部隊出身者もいるそうです。

事実とすれば、法務省、保釈を認めた裁判所、逃亡を懸念した検察、出入国管理部門は、完全に裏をかかれた。こんな大掛かりな支援組織が日本に頻繁に出入りしていたとは。映画ドラマです。出入国、通関、旅券などをめぐり、かれらにも不正行為があったとすれば、違法なビジネスです。

監視カメラがあっても追尾せずか

日本の危機管理態勢は、プロ組織によって丸裸にされていたともいえる。周辺の監視カメラがとらえていた映像を「リレー方式」で繋ぎ、解析して、当局は逃亡経路が推測できたと、テレビがニュースで伝えていました。なぜ、リアルタイムで追跡し、尾行をしていなかったのか。不思議です。

これまで日本には保釈逃走罪が法律になかった。そうだとすると、「海外逃亡による主権の侵害」という意味は何なのか。法務省はやっと、「保釈中の逃走を処罰する法改正に取り掛かる」(読売新聞、7日)そうです。のんびりしている。逃亡しても保釈の取り消し、保釈金の没収はできても、海外逃亡で逮捕はできなかったとなるのか。

支援組織と契約し、プライベート機をチャーターし、新幹線で大阪に移動し、隙だらけの関西空港から「さようなら」か。15億円の保釈金を没収され、それを上回る逃亡費用も支払ったらしい。さすがにスケールが大きい。日本全体がバカにされているような気がしてなりません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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