米軍が学ぶ「失敗は成功のもと」

2020年01月17日 11:30

独語では「Aus Schaden wird man klug」という諺がある。日本語では「失敗は成功のもと」という諺とほぼ同じ意味だ。幸い、どの国でも失敗して意気消沈している人を鼓舞し、再出発への気力を奮い起こさせるためにはそれに相応しい諺や表現があるものだ。

▲米軍の無人機で殺害されたソレイマニ司令官の埋葬(2020年1月7日、ケルマーン市、IRNA通信公式サイトから)

▲米軍の無人機で殺害されたソレイマニ司令官の埋葬(2020年1月7日、ケルマーン市、IRNA通信公式サイトから)

なぜ、その諺を思い出したかというと、当方が最近、大きな失敗をしたからではない。ここでは米軍の話だ。

米軍の無人機が3日、イラクのバグダッドでイラン革命部隊「コッズ部隊」のカセム・ソレイマニ司令官を殺害したが、これは成功談だが、米メディアによると、同時期に実行した“もう一つの暗殺計画”は失敗したという。

具体的には、イエメンで暗躍していたコッズ部隊財務担当で、米軍兵士誘拐、殺害などを繰返してきたアブドルレザ・シャハライ司令官の殺害計画が実行に移されたが、うまくいかなかった。なぜ失敗したのか、どのような暗殺計画だったか、などの詳細な情報は報じられていない。

成功したソレイマニ司令官殺害は大きく報道されたが、失敗した話となると、人は途端に消極的になるものだ。米軍だけではない。できれば明らかにしたくないという思いが湧いてくるものだ。

イエメンではイランの軍事支援を受けるシーア派反政府武装勢力「フーシ」がサウジアラビアの支援を受ける政府軍と武力闘争を展開している。イランとサウジの代理戦争の様相を深めている。シャハライ司令官は「コッズ部隊」のイエメン戦線司令官というが、そのプロフィ―ルは不明だ。米国が賞金を懸けて同司令官を追跡してきたことをみると、大物のようだ。

その大物殺害に米軍は成功しなかったわけだ。イラクのバグダッドではソレイマニ司令官の無人機殺害に成功したところをみると、イエメンでも米軍は無人機で殺害を計画していたのではないか。それがうまくいかなかったのだ。

米軍関係者は次期選挙の再選に腐心するトランプ大統領ではない。なぜわが軍の無人機は計画通りに機能しなかったか、計画に問題はなかったか、などについて検討したはずだ。軍担当者は政治家ではない。成功もいいが、失敗も将来の重要材料となるからだ。

興味深い点は、イラクとイエメンでの米軍のイラン司令官暗殺計画が実行された直後、トランプ大統領は、「無人機を今後は国内で生産するべきだ」と主張し、軍幹部たちに精密な無人機の生産に力を入れるように指令したことだ。

大統領の発言を少し憶測を交えて考えると、イエメンで導入した無人機がうまく作動しなかった理由の一つには無人機の性能の欠陥があったのではないか。

トランプ氏が無人機の改善、国内生産を奨励したということは、単なる経済的理由より、性能が問われたはずだ。参考までに、中国は現在、大量の無人機を製造し、世界に輸出し、様々な用途で利用されている。トランプ氏は無人機製造分野でも中国が進出し、高品質で安価な無人機を保有していることに焦りを感じたのではないか。

無人機は遠距離から操作し、ターゲットを撮影したり、時には軍事目的に利用する。無人機を操作する側のコントロールが何らかの理由で正常に作動しなかった場合を考えてほしい。本来、殺害すべきターゲットではなく、無人機を操作する側に向かってきた場合、どうするだろうか。日本で多くの読者を持つ推理作家・高野和明著「ジェノサイド」(角川文庫)では、無人機がハッカーされ、米副大統領が乗る車を爆撃する場面が描かれている。

無人機の軍事利用に関する国際間の管理協定は不可欠だが、同時に、安全対策は重要となる。全てがコンピューターで繋がり、迅速に正しく作動するが、例えば、電磁波が導入された紛争になれば、そのコンピューター・ネットワークは破壊され、無人機が誤動される事態も予想される。一瞬にして最先端の科学技術社会が旧石器時代に戻されるのだ。

中国は宇宙戦を想定し、敵国の人工衛星を撃墜させる電磁波攻撃などのシナリオを練っている。例えば、北朝鮮の核兵器や弾道ミサイルは近未来の戦争では無力化されてしまうことが十分に考えられる。だから、金正恩朝鮮労働党委員長は焦るような気持ちで米国の電磁波攻撃を最小限に防げる核搭載弾道ミサイル(SLBM)発射可能な新型潜水艦の開発に力を入れ出しているわけだ。

蛇足になるが、米軍は失敗から学ぶ時間があるが、金正恩氏には失敗は即、金王朝の崩壊を意味する。金正恩氏には「次の機会」がないのだ。それだけに、米国にとっても(自身の存続を賭けた)北朝鮮は怖いわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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