0か100か…医療では「白黒思考」をやめよう

わたしたちはつい、物事を考えるのに、0か100かの論理を使ってしまうことがあります。わたしも、物事を白黒つけたいと思うところがあり、なんとなくグレーな領域に物事がとどまっていることは、気持ちが悪いと思うことがあります。完璧主義者の方であれば、その気持ちはもっと強いかもしれませんね。

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しかし、医療について考えるとき、「0か100か」の白黒思考には注意が必要で、場合によっては、その思考によってニセ医学に引きつけられてしまうこともあります。

よく言われることですが、医療において、「100%」ということはほとんどの場合においてあり得ません。手術が合併症なく終わる確率ももちろん100%ではありませんし、日常的に行われている検査すら、100%有害事象が出ないとは限りません。

例えば、造影剤(病気の部分がよく見えるように、血管に入れる薬剤)を投与してCTを撮影する検査の場合、非常に低い割合ですが(100人に1人もいません)、アレルギーにより死亡することがあり得ます。

医療では、メリットだけではなく、検査や手術によって起こりうるデメリットも、患者さんに説明しなければなりません。ドクターX・大門未知子の決め台詞のように、「わたし失敗しないので」とは、いきません。

「100%の安全」「100%の成功」もし、病院にかかるのなら、不利益が起こりうることはないのだと、安心したい。そういう気持ちはわたしもわかります(研修医をしていた13年くらい前に、麻酔科をローテートしていて、手術の有害事象について説明していたとき、患者さんに、「うまくいかないことがあり得るなんて言うのはもってのほかだ」と、怒られたことがあります。

それだけ、確率の問題でも、個人にふりかかってしまうと、その人にとっては百パーセントの現実となりますし、患者さんにとっては非常に重いことです。もっと言葉を選んで説明するべきだったと、反省しています)。しかし、100%はあり得ないというのが現実です。

では、医療においてはどんな考え方をするのか、というと、

リスク(危険性)とベネフィット(利益)とを秤にかける

という作業を行います。ある検査から得られる利益よりも、危険性が高い場合は、その検査は行ってはなりません。ある人が手術を受けるのは、利益(癌などの病気がなおること)が、危険性(手術や麻酔による合併症)を明らかに上回っているからです。

また、頭が痛いからといって、すぐに頭部CTをとるわけではありません。問診や診察から、くも膜下出血などの病気が疑われるとCTが必要になりますが、必要ない人にCTをとることは、いたずらに被曝をさせてしまうことにもなります。

このように、医療には、結果の不確実性が、多少ともついてまわります。そんな中にあって、「がんが100%治る」などの広告を見たら、わらをもつかむ気持ちで飛びつきたくなってしまう方もいるかもしれません。医療においては、「100%」という言葉は、原則的に使うことができないため、われわれ医療者は、このような「怪しい」広告は、効果のない自費診療を行っている機関のものだと即座に気がつきます。

「100%を求める」思考が、ときとして危険であることも、医療を理解する上では重要なことかもしれません。

松村 むつみ
放射線科医・医療ジャーナリスト
プロフィール