杉田水脈議員に学んで欲しい「ヤジ将軍」の言葉

高橋 大輔

議場が騒然となった、ある「ヤジもどき」

通常国会が始まって早々、国民民主党・玉木雄一郎代表の質問で話題が夫婦別姓に及んだ際、議場に飛んだといわれる「だったら結婚しなくていい」の声。

衆議院のインターネット中継でも2時間17分を過ぎたあたりから場内が騒然としはじめますが、動画では声の主を確認することは出来ません。

一説には自民党・杉田水脈議員ではという推測もありますが、誰であろうと品格を問われることは疑いようがなく、「やじが議場の華」とよばれた時代も今は昔。手鼻にも劣る見苦しさを感じずにいられません。

杉田議員公式サイトより

さっそくネット上では今回のヤジに対する批判的な声が巻き起こっていますが、私に言わせれば「本来のヤジ」に対していささか失礼ではないか。騒然の元となった放言ははるかに格下の「ヤジもどき」にすぎないという印象がぬぐえません。

本来ヤジというものは発言者の力量が問われ、使いこなすには相当の反射神経と見識が問われます。今回のそれはいずれも感じられず、むしろ声の主には言葉の貧弱さに憐みさえ感じます。

発言の主によって切れ味抜群にも、あるいは鈍(なまく)らにもなるのが言葉の妙味です。

それゆえ、与野党を問わず政治家の皆さんがその重みを感じ、適切に用いようとしたならば。

凝り性に陥る必要はないまでも、せめて「うまいこと言うなあ」そう思わせてくれるやりとりが増えれば、論戦も有権者を巻き込めるはずなのです。

ところが、こうした貧相な言葉しか繰り出せない現状を見るにつけ、またかと溜息があふれます。

ぜひ学んで欲しい「ヤジ将軍」の言葉

そうした中、本来のヤジを考えるうえで思い起こされるのが、ある「ヤジ将軍」の言葉です。もっとも今回取り上げるのは「政界の暴れん坊」ハマコーこと故・浜田幸一議員ではなく、戦後保守合同の立役者・三木武吉です。三木もまた、大正から昭和前半にかけて綽名され、憲政史においては元祖というべき存在です。

三木武吉(Wikipedia)

三木が発したヤジの数々は機智に富み、現在も唸らされるものが数多く残ります。たとえば原敬内閣の大蔵大臣を務めていた高橋是清が、戦艦8および巡洋艦各8隻の海軍拡張をめぐり「国防のごときは、1年限りの経費で済まないものである。海軍においては8年」と説明したのに対し三木は開口一番「達磨は9年」と浴びせかけました。中国の達磨大師が壁に向かって座禅し、悟りを開いたという「面壁9年」と、高橋のニックネーム「達磨」をかけたもので、言われた当人も苦笑を禁じえなかったといいます。

また政治評論家・戸川猪佐武の評伝『小説 三木武吉』によると、1952年(昭和27年)に行われた衆院選の立会演説では、みずからが「ある有力な候補者は、妾を4人も持っている。このような不道徳な輩を国政に出す訳にはいかない」と攻撃された際、次のように切り返したとされています。

「私には妾が4人あると申されたが、事実は5人であります。5人の女性たちは、今日ではいずれも廃馬と相成り、役には立ちませぬ。が、これを捨て去るごとき不人情は、三木武吉にはできませんから、みな今日も養っております」

聴衆は大いに沸き、三木は票を減らすどころか圧倒多数の得票で当選。現代の社会通念上は通用しないとしても、なるほど一理あると唸らされます。三木だけでなく、政敵であれ有権者であれ、それだけ政治を見るまなざしが肥えていたと言えましょう。

はたして「現代の三木武吉」登場は望めないか

一方で、三木の根幹をなしたものは何かというと、単なるレトリックだけではなく、そこには言葉以上に確固たる「胆力」そして「覚悟」がありました。

雄弁家で知られる衆議院議員・中野正剛が東条英機内閣の専制政治に抵抗した際、翼賛政治会の幹部を痛撃した際のエピソードは、数ある三木の逸話の中でもひときわ鮮烈です

1943年(昭和18年)6月17日の夜に行われた翼賛政治会代議士会において、戦争遂行の是非をめぐり中野が「おおよその権力の周囲には、阿諛(あゆ)迎合のお茶坊主ばかりが集まる。これがついには国を亡ぼすにいたる。日本を誤るものは、翼政会の茶坊主どもだ」と発言すると、対する主流派議員は一斉に中野を口撃。その時、三木はにわかに立ち上がり「茶坊主ども、黙れ!」と、主流派議員たちを黙らせたといいます。

冒頭の「結婚しなくていい」発言が、果たしてどれだけの覚悟をもって発せられたのかは疑問です。もっともそれ以上に深刻なのは、今の国会には三木武吉が「茶坊主ども、黙れ!」と気を吐いたような自浄作用が働かないことです。

これは日ごろ「社会の木鐸」を自認するメディアからも現代の三木を期待するような論陣が張られないこと、そうした不勉強にも責任の一端があります。そして議員やメディアだけの責ならず、私もふくめた有権者の見識不足にも一因があるといえましょう。

そう考えると、発言の主が杉田議員であろうとなかろうと「お願いだからいい加減、みっともない真似はやめていただきたい」そう思わざるを得ないのです。

高橋 大輔 一般財団法人 尾崎行雄記念財団研究員。
政治の中心地・永田町1丁目1番地1号でわが国の政治の行方を憂いつつ、「憲政の父」と呼ばれる尾崎行雄はじめ憲政史で光り輝く議会人の再評価に明け暮れている。共編著に『人生の本舞台』(世論時報社)、尾崎財団発行『世界と議会』への寄稿多数。尾崎行雄記念財団公式サイト