プーチン氏、習近平主席の道を行く

長谷川 良

ロシアのプーチン大統領は15日、年次教書演説の中で同国憲法を改正する意向を表明したばかりだが、20日にはその改正案が連邦議会(下院)に提出され、国家院(下院)で23日、プーチン氏が提出した改正案の第1読会が始まり、出席した432人の議員全員が大統領の憲法改正の意向を支持した。第2読会は2月11日に開催予定だ。なんと超スピードの憲法改正プロセスだろうか。

年次教書演説をするロシアのプーチン大統領(2020年1月15日、ロシア連邦大統領府公式サイトから)

国家の基幹となる憲法の改正は大イベントだ。慎重な準備と審議が不可欠だが、ロシアではどうやらそうではないらしい。憲法改正に反対する議員は1人もいなかったのだ。戦後、米軍が作成した日本の現憲法改正のために苦戦する自由民主党総裁の安倍晋三首相が聞けば、腰を抜かして驚くことは間違いないが、同時に羨ましく感じるかもしれない。

ロシア議会(下院)議員がプーチン氏が提出した憲法改正案を全員一致で支持したということは、①誰の目にも現憲法が非常に悪く、改正が久しく求められてきた、②解体したソ連共産党政権時代の独裁政治体制がプーチン大統領のもとで依然機能している結果、③元KGB(ソ連国家保安委員会)出身のプーチン氏の政治生命延長工作が成功した、等々の理由が考えられる。欧米メディアの目には、プーチン氏が突然、憲法改正の意向を言い出したのは③、という点でほぼコンセンサス(全員一致)がある。

プーチン氏が提案した憲法改正案では、22条、40カ所以上の修正、改正が明記されている。その中でも、①国家評議会の強化と権限拡大、②大統領任期を2期制限案が目を引く。

ロシア連邦の現憲法では大統領の任期は「連続2期」に制限されている。だからプーチン氏は現憲法の「連続2期」の任期という点を利用し、2期を終えた段階で一旦首相に降り、首相1期を務めた後、新たな第2回目の「連続2期」に入ったわけだ。改正案では「連続2期」から「通算2期」に改正されている。

ところで、プーチン氏の2回目の「連続2期」が終わるのが2024年だ。現憲法が続く限り、プーチン氏は24年後、1期を休んだあと第3回目の「連続2期」を目指すことができるが、改正案によれば、「通算2期」を終えた大統領はそれで上がりだ。その一方、プーチン氏の後釜になる大統領はプーチン氏のように通算4期の大統領を務めることはできなくなる。その意味で、改正案はプーチン氏の後継者封じ込め作戦ともいえるわけだ。

問題は、2024年の後のプーチン氏だ。1952年10月生まれ、現在67歳だから健康問題が生じない限り、まだ10年余りは政治生命を継続できる年齢だ。プーチン氏もそれを願っているはずだ。改正案は24年の任期終了後も権力を掌握したいプーチン氏の願いが反映したものとみてほぼ間違いないだろう。

それではどのようにして権力を維持するか。簡単だ。大統領ポストに代わる国家評議会の権限強化だ。そしてプーチン氏は国家評議会の議長に就任する。大統領という呼称が国家評議会議長というタイトルに代わるだけで、プーチン氏はロシア最高指導者に留まることができるわけだ。

まとめると、自分の後釜に就任する新大統領の任期を通算2期に制限する一方、大統領に代わる最高意思決定機関として国家評議会の権限を拡大し、そのトップに就任するという狙いだ。

具体的には、新しい国家評議会は国家の「内政」と「外交」の政策を決定し、「社会」と「経済」の諸問題の解決策を決める役割を担う。新国家評議会は大統領諮問機関から脱皮し、ロシア全般に対し政策決定する意思決定機関に生まれかわるわけだ。

クレムリンに批判的なタブロイト新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」が「プーチン氏の権限は改正案でさらに強化されるだろう」と受け取っている。頷ける見解だ。

憲法改正案ではまた、「ロシア憲法が国際法より優先する」旨が明記されているから、改正案が採択されれば、ロシアの人権活動家たちはもはや欧州人権裁判所に訴える道が閉ざされることになる。野党の人権活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏や国際人権擁護グループから改正案に対して批判の声が上がるのは当然だろう。

当方は「プーチン氏の次の夢は終身制導入?」(2018年3月20日参考)というコラムで「中国全国人民代表大会(全人代)は2018年3月11日、国家主席の1期5年の2期10年間の憲法条項を撤廃し、終身制への道を開く憲法改正案を賛成多数で成立させたばかりだ。だから、習近平氏は2023年以降も国家主席のポストに座り続けることができる。プーチン氏もうかうかしておれない。プーチン氏は任期中、2期12年間の現大統領任期制限を中国と同じように撤廃するかもしれない」と書いた。どうやら、当方の予想が的中するような雲行きだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。