米国の措置を猛批判する中国、その救いようのない国柄

高橋 克己

本稿では、中国紙環球時報が2日と3日の夜に報じた新型肺炎に関連する記事を紹介し、これを批判する。なぜなら、その内容が余りに厚顔かつ無反省であり、これら報道がむしろ国際社会をして中国に対する「厭(あ)きれ」を助長することにしかならないと考えるからだ(以下はいずれも拙訳)。

新華社サイトより

2日の見出しは「ウイルスに対する中国の戦いを攻撃する米国の不道徳(US immoral to attack China’s fight against virus)」、3日は「ウイルスへの対応は党体制の強さの表れ(Response to virus shows strength of Party system)」。後者は署名コラムだが、どうせ同紙が書かせているものだろう。

前者は、米国が日曜から「2週間以内に中国を訪れた外国人の入国を禁止する措置」をとったことを「不道徳」と猛批判する。記事は、米国の措置は「WHOの宣言をはるかに超えて」おり、「このような極端な措置を最初にとった国で、世界的な悪例」と米国をこき下ろしている。

WHOが緊急委員会を開いた22日辺りまでは、初動の遅れや情報隠蔽に対する批判にも正面切った反論をせずにいた中国だが、30日のWHO緊急委員会で、28日に習主席を訪問したテドロス局長と同趣旨の以下のような発表がなされたことからか、米国に対するこうした批判に出たようだ。

委員会は目下の活用可能な情報に基づく旅行や貿易の制限を勧告しない。・・委員会は中国政府の最高レベルのリーダーシップ、政治面で透明性のあるコミットメントと目下の流行を調査し封じ込めるための努力を歓迎する。中国は迅速にウイルスを特定して配列を共有したので、他の国は速くウイルスを診断し、自ら護ることができた。結果、診断ツールが急速に開発された。・・中国がとった措置は世界の他の国々にとっても良いことだ。

WHOが「中国の対応を評価」し「移動制限を勧告していない」のに、米国は中国全土からの入国禁止の措置をとったと中国は批判するのだが、米国と同様の全中国からの禁止処置を、豪、NZ、比、シンガポール、モンゴルなどがとっている(2日日経)し、テドロス氏が中国塗れのエチオピアから出ていることも国際社会は知っている。

2日の記事はこうも書いている。

このウイルスは間違いなく中国経済に害を及ぼす。・・ロス商務長官が致命的なウイルスが米国への仕事の復帰を加速するのに役立つと主張した。これも不道徳だ。中国が一時的な困難に直面している時に彼らは中国の人々の感情を傷つけるべきではない。

ロス氏の他人の不幸に付け込むような発言も、本音とはいえ確かにどうかと思う。が、その批判を今回の災禍の震源地である中国がするのはそれ以上に如何か、と感じる。同情は他者の自発的な感情の発露であって、他者にそれを求めるようなものでない。こういった中国の感覚こそ日本人の理解をはるかに超える。

3日のロイターも「中国外務省、新型ウイルスへの対応で米国を批判」と報じた。記事によれば同報道官は米国の措置を難じ、「大規模な支援も提供していない」と米国を批判した。だが、2日のVOAは「トランプ:米国は中国からのコロナウイルスを“シャットダウン”」との記事でこう報じている。

トランプ氏は「中国に援助を申し出たが、コロナウイルスという問題を抱えている何千人もの人々を受け入れることはできない」とスーパーボウルの試合前インタビューでFOXニュースに語った。・・国家安全保障顧問オブライエン氏は、CBSに対し「政府が中国への支援、具体的には疾病管理予防センターの専門家派遣を申し出た。が、中国はまだ米国の申し出を受け入れていない」と語った。

中国報道官発言とトランプ・オブライエン発言が真っ向対立した格好だが、「専門家派遣」は「大規模支援」ではないといいたいのかも知れぬ。が、専門家に現地入りされた日には、お粗末な公衆衛生や種々の対策の不備を世界に発信されかねないと考え、辞退せざるを得なかったという辺りが真相だろう。

VOAは1日、WHOのリンドマイヤー報道官が「旅行者の制限は裏目に出る(backfire)可能性がある」と述べたとも報じている。発言の趣旨は「人々は非公式な方法であろうと行きたいところへ行くので、公式な検問を経るようにすることが旅行歴を特定できる唯一の方法」ということのようだ。

同報道官は「国家には国民を保護するのに最適だと思われるあらゆる手段を講じる主権がある」とも述べたようだが、どうにも中国に同情的である一方、自衛策をとる諸外国に批判的との感が否めない。

WHOのこうした姿勢を反映してか、環球時報は3日夜の別記事でも、「ウイルスへの対応は党の体制の強さの表れ(Response to virus shows strength of Party system)」との見出しで、中国共産党の一党独裁であるからこそ、ここまでの対応がとれていると自画自賛の体だ。要点はこうだ。

  • 中国共産党の(市などの)一次レベルの組織は中国の体制の重要部分で、08年の四川地震や03年のSARSなどの自然災害や公衆衛生の危機に際し強力な組織力と動員力を発揮する
  • 多くの外国人と西側メディアは中国の一次レベルの党組織の活動に精通していない
  • (今回のことは)外の世界が中国の体制を観察するチャンスだ
  • 18年末までに中国共産党員は9000万人を超え、一時レベルの党組織は461万に増加した
  • 中国の主要な党組織は、流行と戦うための効果的なネットワークを形成し、流行後に武漢市から出てきた人々はすぐに追跡して見つけることができる
  • 一部の西側メディアは中国の体制を悪くいうが、彼らが中国の第一次党組織の効率的な運営を見るよう願っている。それは中国をより客観的かつ包括的に理解するのに役立つ

そんな中、4日のAFPが「中国が対応の不備認める」と報じた。記事によれば、政治常務委員会が「流行への対応で明らかになった欠点と不足」への対応として、「国家の緊急管理体制」を改善すべきと指摘したとしている。

が、当該部分を3日21時過ぎの新華社「習氏、疫病対策のリーダー会議議長を務める」に当たると「The meeting stressed improving the country’s emergency management system and capacity of handling urgent, difficult, dangerous and important tasks(会議は、国の緊急管理体制と緊急、困難、危険かつ重要な職務を取り扱う能力の改善を強調した」とあるだけだ。

新華社記事を読む限り、「対応の不備認める」というよりも、この時点で一旦これまでの経過を総括して今後必要な対策を議論し、習氏がそれを指示する会議のように思われ、むしろ上述3日の環球時報の、この期に及んでも共産党体制をPRする姿勢の方が、目下の中国政府の態度として腑に落ちる。

この病気の新規性を昨年の段階でSNSに発信して拘束され、20日過ぎに解放された者たちが、実は武漢の医師だったとされることや、武漢市の幹部が中央政府から箝口を強いられていたと会見で述べたことなどは、中国政府による最も重要な初動における隠蔽の隠しようもない証拠だ。

それに口を拭って、今回の新型肺炎のパンデミックを以て、他国に同情を求めたり、支援がないことを難じたり、他国の自衛策を批判したり、かてて加えて共産党一党独裁体制のPRに利用したりするなどという態度は、中国という救いようのない国柄を国際社会に晒し、厭きれさせている。