酒好きのスペインでこの10年「バル」が減少した理由

2020年02月08日 06:00

1970-80年代はスペインのどの都市でも中心街の中央広場にはバルが多くあった。日本的な概念のカフェテリアといった印象も与えていたが、アルコール飲料を多く揃えたバルだ。また、そこでは軽食も取れるようになっていた。

セビリアのバル(Dr Bob Hall/flickr)

スペインは飲酒運転がまだできる国だ。もちろん、以前に比べ飲酒への規制は厳しくなっているが、取締対象となる呼気1㍑当たりのアルコール濃度は0.25mg以上で、日本(0.15mg以上)よりは緩い。もし飲酒運転を100%禁止すると、スペインの経済が機能しなくなるという見方もあるくらいだ。

例えば、スペインの地中海沿岸地域だと大半の企業が30分の間食の時間を設けている。一般に朝食を食べないで出社する傾向があるため、企業によって時間帯は異なるが、午前9時半頃から30分間食の時間がある。従業員は仕事を休め近くのバルに行って軽食を取るのである。家で準備したボカディーリョ(細長いパンにハムやサラミなどを挟む)をもって行きバルで添え物も注文する。その時にもビールやワインを飲む人が結構多くいる。

もうかなり以前であるが、ある新聞に次のような逸話が報じられた。日本の企業から工場長が現地工場を視察するために訪問したそうだ。現地の習慣に従って彼も間食の時間に従業員と一緒にバルに行った。そこで彼が驚いたのは、従業員が朝からビールやワインというアルコール飲料を口にしているということであった。

そこで直ぐに彼の脳裏に浮かんだのは、「こんなことで、我社の製品を朝からアルコールを飲んだ従業員がまともに生産してくれるのだろうか」という疑いだったそうだ。従業員が行くバルは工場団地内やその近くで営業しているバルだ。

しかし、このような習慣もスペインの北部地方だと余り見かけない。筆者が北部地方の企業を訪問した時に従業員は間食の時間帯に食べ物を軽く口にして仕事を続けていた。

jpellgen/flickr

統計によると、スペインにおける昨年のホテルと飲食業店の数は31万4300軒、その内の27万9400軒がバルとレストラン及びその両方を兼ね備えたものとなっている。

ところが、この10年間で毎年平均して2400軒余りのバルが姿を消している。ということで、2010年から昨年までで2万軒近くのバルが廃業しているそうだ。尚、昨年は例年の半分の1123軒が閉めただけであったという。(参照:elpais.com

しかし、今もスペインでは「175人あたり1軒のバルがある」という統計結果はやはり数字としては高い。多くのスペイン人にとって、バルのない生活は考えられないのである。恰も、教会に行ってミサで話すのを聞いて精神的な気休めを得る代わりに、バルに行って喋ってストレスを発散させるのである。多くのスペイン人にとってバルはその為に存在しているのである。(参照:lavozdegalicia.es

ところが、この10-15年余りスペイン全体で傾向が変わって来ている。バルで一杯のコーヒーで長時間長居されるのはバルの経営者にとって採算に乗らない。特に、店舗が借り物であれば家賃の支払いに追われて利益が出せなくなる。それは都市や過疎化した村でその傾向が強い。

1970年代後半までは大半のバルが繁盛していた。しかし、飲み物だけで採算ベースに乗せるのは物価の上昇に伴って難しくなっていった。そこで軽食を取ることはできたが、あくまでメインのビジネスはアルコール飲料とコーヒーのサービスであった。

それに代わるビジネスとして登場したのが比較的安価に食事できるレストランで、それにバル的なサービスが付随したものである。同様にスターバックスといった大手のチェーン店がバルの減少を招いている。

同様に過疎化が速度を増して行くにつれ、特に村でのバルの経営も成り立たなくなっている。過疎化の影響で村でバルが極度に減少しているというのは社会問題にもなっている。バレンシア県にある人口100人のラ・ポルテラという村では30年前は2軒のバルと小売店2軒に薬局が1つあった。

jgbarah/flickr

しかし、今では唯一あるのはバルが1軒だけだ。それもソーシャルセンターのようになっていて、バルで提供するコーヒーや飲み物は役場の負担で仕入れているそうだ。このバルを運営している夫婦にはバルの維持費は一切負担しなくて済むようになっているそうだ。

スペイン中央北部のバリャドリード県に所在する人口132人の村ビリャルバルバでもバルが1軒ある。この村の住人のひとりは「村にバルがないと誰とも会うことがなくなる」と語ってバルの必要性を強調した。そのバルを運営する希望者を役場がフェイスブックで募ったところ600人が応募して来たそうだ。

バルの運営者には仕入れや維持費の負担は一切かからず、それは役場で負担することになっている。村長のカルロス・マルティネスは「バルがない村は死んだも同然の村だ。バルは公共サービスの場だ」と語っている。

時代は変化している。バルの存在を無視できないスペイン人が新たに生んだのが、ワインバルである。スペインは世界3大ワイン産出国のひとつだ。ワインの種類を数多く揃えワインを嗜んでもらい談笑の場を提供している。まだその数は全国的には少ないが、どの都市でも定着しつつある。

ワインバルの登場によって、ビールを好んでワイン離れしている若者を対象にワインを好きになってもらうという目的もある。(参照:sobremesa.es

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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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