クルーズ船の医薬品不足

中村 祐輔

昨日の発表で、さらに41名もコロナウイルス陽性者が出たことには驚いた。感染の可能性の高い人から検査をして、31分の10、71分の10だったので、割合がさらに低くなって、残り171名で10-20名程度と予測していたが、41名と2日目の発表より頻度が高かった。この割合は、感染力の高さを反映しているのかも知れない。

NHKニュースより

もう一つの可能性は、香港で下船した患者さんだけではなく、他にも感染者がいて、複数の方から拡散したことだ。武漢だけでなく中国全体の広がりの大きさを考えると、予測よりかなり感染力が強く、致死率は最初の数字よりも低いのかもしれない。

そして、私が気になっているのは、隔離期間中のクルーズ船内の患者さんの医薬品だ。高齢者(私もそうだが)の多くは何らかの疾患で薬剤の服用をしている。私も含め、多くの方は、出張や旅行の際には予備の薬を携帯していく。昨年の秋、日本に来た台風で2日間メキシコシティーに足止めとなった不測の事態があったが、それ以上の予備は持っていた。しかし、今回のケースのように下船予定日から2週間以上もの予備薬剤はもっていないだろう。

今日のテレビで「薬がない」ことを垂れ幕で訴えていた日本人乗客がいた。病気によっては、1-2日服用しないことが大きな問題を引き起こす可能性がある。例えば、1型糖尿病など、インスリン注射ができなくなると、血糖が急上昇する。抗がん剤など、毎日服用すべきものができなくなると影響が大きい。

もし、日本で、データベースで検索できるようになっていれば、乗客に薬剤不足が起こっている情報を簡単に正確に把握し、薬剤を供給することができる。マイナンバーに診療情報が紐づけできればこれはすぐに可能となる。人工知能ホスピタルプロジェクトでも、大震災時や旅先・出張先でも診療記録に直ちにアクセスできれば、切れ目のない治療が提供できるだろう。

こんなことを考えていて、さらに気になったのが、外国人患者さんへの対応だ。海外で承認されて、日本では承認されていない薬剤を服用している場合、速やかに対応できるのだろうか?

日本政府は日本国民の健康を守るのを優先しているのかもしれないが、やはり、今回のようなケースを想定した外国人患者への対応マニュアルも必要だ。80歳代の外国人女性が心不全で救急搬送されたと聞いたが、速やかに健康を回復されることを願ってやまない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2020年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。