社長兼従業員:社長の仕事とは常識の壁を打ち破ること、その壁は…

会社の中でよくありそうな話が「社長、そんなこと、私どもがしますからどうぞお気になさらないで」でしょうか?社長が末端の仕事をしちゃいけないような風にも聞こえますが、人に言わせれば「社長はドーンと構えていてくれればいいんですよ」ということなのでしょう。

写真AC:編集部

私から見ればそれは二時代ぐらい昔の話で今は社長が一番実務を知るべき時代だと思います。もちろん、業種にもよりますし、なんでも社長ができるわけではありませんが、少なくとも何が起きているか、現場を見て、何が悩みなのか、入り込む必要はあると思います。

私の社会人人生はやんちゃをしてチャレンジばかりでした。今だから言える逸話の一つをご紹介しましょう。24歳の時、ある大型の工事現場担当でした。場所柄近隣は山林で買い物も不便なところで作業員は宿舎に泊まり込みでした。

現場立ち上げの際は作業員のために清涼飲料の自販機を置くのが普通で通常は近くの酒屋あたりにその手配をします。ところが、私は機械だけ業者から無料で借りてきて缶入り飲料を大量に仕入れて売ったのです。つまり任せないで自分で経営したわけです。

一缶55円で仕入れて100円で売るのですが、作業員が100人ぐらいいますので毎日百本は確実に捌けるのです。1年あたり150万円ほど利益が出るので貯まると現場旅行でパッと使ってしまいました。現場所長も私をよく放任したと思いますが、変わった奴だと思ったことでしょう。

私は多分既存のやり方がなぜそうなのか、常に疑問を持つタイプなのだと思います。自社の事業で年に一度の顧客との契約更改の書類でも毎年、見直してバージョンアップをかけるのです。

つまり、自分自身に対しても既存に甘えないのだと思います。出入り業者も結構変えます。新しい業者は必ずなにかメリットをもたらそうと努力するからで胡坐をかいた業者には「さようなら」というのです。

こんな切った、貼ったの社会人生ですから経験値が異様に高まり、今まで人に頼んでいたことでも自分でできるようになったりするのです。

12月に買収を一つ、1月に売却案件を一つ完了させましたが、その間、弁護士も会計士も一切使っていません。ドキュメンテーションぐらいは全部自分で作れるからです。かつて当地の弁護士を多用していた時、弁護士の仕事をじっくり見て、自分でできるところまでやって弁護士に採点してもらうような仕事の仕方をしていました。

普通の人は弁護士にお任せしますが、私はそうではなくて弁護士と一緒にドキュメンテーションをさせてもらったのです。連中も基本的にひな形を使いながらそれを形に変えていくだけですから、ある程度のコツとポイントをつかむとこの契約では何が必要なのか見えてくるのです。

私はよく大所高所から見る話をさせて頂きますが、高いところからの景色はもちろん違いますが、地上で近くによってじっくり見ないと本当の大所高所の景色はわからないと考えています。社長の仕事とはこの能力を求められるのだと思います。

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日本の大企業が苦しんでいる記事をよく見かけます。パナソニック、三菱重工、メガバンク…。なぜ、大企業が苦しむのか、といえば優秀な大学を出て社内でも優秀と持ち上げられ続けた社員が出世街道を走ってきただけでレールの外側の経験値が全くないことで本当のことが見えなくなっているように感じるのです。

言い換えればかつて人気企業で国立や有名私立大学出がわんさか入った会社ほどどうにもまとまらなくなっているように感じます。きっと船頭ばかりで何が正しいか机上の空論で空回りしているからでしょう。

案外、担当レベルが一番答えを知っていたりするのですが、社内で情報の疎通とその分析にギャップが生じていて担当者も「エリートの壁」「組織の壁」が攻略不可能で仕方がないと考えている節はありそうです。

社長の仕事とは常識の壁を打ち破ること。その常識の壁は実務にあり、と考えています。そして多くの若手にもこの言葉の意味を理解してもらえればよいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年2月9日の記事より転載させていただきました。