それでも手を洗わない人に、手を洗わせるたった一つの方法とは

梶井 彩子

医療系施設でも手洗い率は40%以下!?

コロナウイルス対策、個人でできることと言えば「手洗い」と「免疫力を高める」くらいしかないという状況で、なんとも心細い思いをされている方も多いかもしれません。

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しかし、逆に言えば私たちは誰もが今すぐいつでもできる「手洗い」によって、未知のウイルスの蔓延を多少なりとも防ぐことができると考えれば、これほど手軽なことはないでしょう。

「いや、そうは言うけど、手ぐらいみんな普段からそこそこ洗ってるでしょ……」とお思いのかたもいるかもしれませんが、実は驚くほど人々は手を洗っていないのです。

『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』(ターリ・シャーロット著・白揚社)では驚くべきデータがあげられています。

アメリカの事例であることを断っておきますが、なんとご当地では、衛生観念に敏感なはずの医療機関のうち、手指衛生が順守されている割合は38.7%にしか過ぎないというのです! しかも飲食店はこれより低く、ミシガン州立大学の研究によれば、一般人が公衆トイレ使用後に適正な手洗いをする割合も、5%にとどまっているといいます。

繰り返しますようにこれはアメリカのデータですが(だからインフルが蔓延しやすいのではないか…?)、思った以上に人々はきちんと手を洗っていない。女性でも、駅ビルのトイレで個室から出てそのまま手を洗わずに去っていく姿を見たことはあります。恐らく今般の日本でも、「手洗いくらいで新型ウイルスを防げるのかよ。いまさら手を洗ったからって……」とか「俺はいままでそんなに手を洗ってないけど、インフルエンザだって罹ったことないぜ」という人もまだまだ多いかもしれません。

恐怖よりも快楽で人は動く

この期に及んでも手を洗わない人々に、どうしたら手を洗わせることができるのか。2008年にニューヨーク州の研究チームが「いかに病院内での手洗い率を上げられるか」について実験したところ、以下のような結果が出たといいます。

①「手を洗え!」と至る所に注意書きを貼る→失敗

②監視カメラで見張る→失敗

③電光掲示板を設置し、職員が手を洗うと「いいぞ!」というメッセージとともに職員の手洗い率を表示→成功!

これにより、職員の手洗い率は90%まで上昇したといいます。

つまり、「病気が蔓延するぞ! 手を洗え」というムチ的警告では人々は習慣を変えなかったのに対し、「よくやった!」などというアメ的メッセージの方が、人々を動かすのに効果があるということになる。これは、脳の仕組みと密接に関係していると本書は指摘します。

あなたは意外に思われるかもしれない。自分や周囲の人々が感染し、病気を蔓延させる可能性は、行動を起こさせるに足る強い動機に見えるからだ。実際、そう思えるからこそ、私たちは恐怖を与えることで他人の行動を改めさせようとする。しかし実際は、取るに足らないフィードバックの方が、警告や脅しよりもよっぽど効果的に人を行動に駆り立てた。

奇妙に感じるかもしれないが、これは脳について判明している事実と非常によく合致している。行動を導くことに関して言えば、即時の報酬は、将来の罰よりも有効なことが多い。

手を洗ったら大々的に褒めよう

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「取るに足らないフィードバックが人を行動に駆り立てる」例としては、ツイッターやフェイスブックが挙げられます。「いいね」や「ふぁぼ」「リツイート」など、もらったところで(それがビジネスに直結している人以外は)これといって実益があるわけでもないが、何となく嬉しい。だから続けるし、もっともっとと過剰にアメをもらおうと、炎上狙いをする人も出てくる。

「手を洗わないとコロナに感染するぞ」といっても動かない人は、さらに脅しても動かない。「手を洗う人はエライ!」「素敵!」などと褒めた方が、手を洗うようになる可能性は高い。手を洗ったらSNSで報告し、みんなで評価しあう。それだけでも手洗い率は高まるのではないでしょうか。

また、本書では「成果の可視化」に加え、「対抗意識」があると燃え上がると指摘。中国VS日本でも、都道府県対抗戦でもいいが、手を洗ったらSNSで報告し、結果を可視化して割合の高いところを表彰するとか、互いに「いいね」の数を競うなどすると格段に手洗い率は高まるかもしれません。

さあみんなで手を洗い、報酬系を刺激して快楽を得つつ、ウイルスに立ち向かいましょう!