楽天問題を機に「無料」を考える:健全なマーケティングか誤認の誘発か?

2020年02月24日 06:01

筆者はこれまで、楽天市場の「送料無料」問題を独占禁止法の優越的地位濫用規制違反の問題として何度か述べてきたが、ここではマーケティングとしての「無料」の問題を考えてみたい。

oldtakasu/写真AC

「ただより高いものはない」という直感から、筆者は「ゼロ円」とか「無料」とかいわれると、むしろ警戒感を強めてしまう。「キャンペーン」として「ゼロ円」をやっている業者は大抵、初期の段階で顧客数を一定数増やす狙いがあり、おそらくその後の(一定以上顧客が増えればその後構造的に顧客が増え続ける)ネットワーク効果や(一度取り込まれたら容易に抜け切れない)ロックイン効果を期待してのものだと思ってしまう。

何れにせよ、後から一定の値段を徴収しても顧客は減らないと思っているから、最初に「ゼロ円」とやる。「無制限に、永久に、『ゼロ円』」ならその企業は潰れてしまう。そうでないならば、他の商品や他の市場にリンクする何かがあって、そこで儲けようとしているのだろう。

最初はゼロ円とか、ゼロ円キャンペーンとかは、初期の段階での損失を後にどこかで取り戻そうという狙いがあると考えた方がよい。それが顧客にとって良いことか悪いことか、あるいは市場にとって良いことか悪いことかは別にして、である。

ただ、独占禁止法の不当廉売規制は「(原価を割るような)安売りによる他者の排除、市場支配、将来における搾取」というシナリオで説明されるものだということは、知識としては用意しておくべきだろう。

さて、ネット販売でいう「送料無料」はどうか。楽天市場の各店舗は一般的に考えて市場支配的になることが考え難いので(だから優越的地位濫用規制の問題になる)、不当廉売規制のような問題ではない。

ネットで商品を買う場合、配送という行為が伴うのであるから、ものの価格の他に送料がかかるのは当たり前である。ただ、一定額以上の場合には「送料無料」と表示されている商品も頻繁に見かける。

「送料無料」は、通常、大きな額の取引の場合には利益も大きいので、そういった「有り難い顧客」の場合には、おまけとして送料分を値引きしてあげるという意味合いがある(Amazon Primeのように最初に費用負担をした顧客にそのサービスを提供するタイプのものもある)。まとめ買いに対する値引きのようなものだ(「送料無料」が伴う場合は「一括配送」になるので、さらに値引きされることがある)。

しかし、これはその意味を「好意的に見た」場合の理解であって、意地悪な見方をすれば、「送料無料と表示すれば「お得感」が出るので顧客を誘引し易い」という効果を期待して、「送料分を上乗せ」しておいて「無料」とやる場合がある、という指摘も可能である。

ビジネスホテルを検索していると「朝食無料」という表示をよく見かける。「無料」という方が「聞こえがいい」からなのだろうか(実質、「朝食付き」一択なのだが)。ホテルの部屋に「コンプリメンタリー(おまけ)」としてペットボトルの水が置いてあるのと同じだ。

パンとコーヒー程度なら「無料」もわかるが、結構本格的なブッフェのところもある。普通に考えてそれも経費なのだから、宿泊料金に反映されていると見るべきなのだが、人は「無料」の言葉に弱いようだ。

そもそも送料を無料にする意思もないのに、商品の価格に送料分を上乗せしておいて「送料無料」とやったらどうなるか。ある店舗が、実店舗での商品の販売価格に送料分を上乗せしておいてネット販売で「送料無料」と表示したら、どう評価すればよいのだろうか。これは「不当表示」だというだろうか。いや、「送料を別途取らないのだから「送料無料」で問題ない」というだろうか。

実質の伴わない「値引き」表示は有利誤認として景品表示法に抵触する恐れがある。それは「送料無料」表示であっても同じである。また「送料無料」の表示があっても、実際は条件(地域や時期等)によって変わるのであれば、それもまた問題になる。

実はこの問題、公正取引委員会だけではなく、消費者庁の出番があるもしれない問題なのである。

ただ、通常の3倍の値段にして「70%オフ」のような表示をすれば、一発アウトになるだろうが、送料無料程度だったら多少の恣意的な表現があってもそれほど消費を歪めている訳でもないし、それも一つの一般化されているマーケティング手法なので消費者もそれはわかっているはずだし、わかって当然というのが予想される当局の反応だろうか。

「無料」の真贋を見極める力が、今、消費者に求められている。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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