トランプ大統領のラテンアメリカ“迷”外交

2020年02月26日 06:00

トランプ米大統領のラテンアメリカ外交は彼の感情むき出しと思いつきの発言に加え脅しに基づいた外交で、一貫した戦略のない座標軸を失った外交だ。ラテンアメリカにおけるトランプへの信頼は激減している。

メキシコへの「手のひら返し」

ホワイトハウスFB

大統領選挙戦の時からラテンアメリカを蔑視した発言が目立ち、不法移民を犯罪者呼ばわりしていた。その影響もあって、彼が大統領に就任した2016年の時点でラテンアメリカでの彼への信頼度は過半数を満たさない49%であったのが僅か1年後には24%にまで急落した。ラテンアメリカで彼の外交政治への支持率は平均して僅か16%しかいない。それが一番高いのはベネズエラの37%、最低はメキシコの7%である(参照:elpais.com) 。

トランプ大統領への信頼が最も低いメキシコに対して、例えば、トランプは不法移民の米国への流入を防ぐことに協力しないのであれば、メキシコから輸入する全製品に先ず5%の関税を適用すると今年6月に表明した。状況次第ではそれを段階的に25%まで引き上げると脅した。

それに対して、メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領はメキシコ南部のグアテマラとの国境に6000人の国境警備隊を派遣することを決めて5%の関税適用は回避となった。国境警備隊の派遣によって米国への不法移民者が減少すると今度は手のひらを返したようにアムロを称賛した。

メキシコのアムロ大統領(Wikipedia)

これで両国の関係は改善されたと思いきや、メキシコから米国に麻薬を持ち込み過激な犯罪を犯しているカルテルをテロリストのリストに載せるといってまたメキシコ政府に迫った。それから僅か1週間後には1年の猶予を与えると言ってその考えを撤回した。

カルテルとの取り組みに改善が見られない場合はメキシコ産品、特に自動車に関税をかけると付け加えた。それに対して、メキシコは米国のエリート特殊部隊と共同編成でカルテル、特に最大のカルテルハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンのリーダーエル・メンチョの逮捕に取り組むということを決めた。これでトランプのカルテルに対しての不満と脅迫は収まった。(参照:infobae.com

アムロはある記者会見の席でトランプのいつも相手を非難する姿勢に対する戦略について尋ねられると、「米国政府と喧嘩しないことだ」と簡単に答えたそうだ。それは単純な戦略であるが思考が比較的単純なトランプにはそれで十分に通用するようである。(参照:bbc.com

アムロの前任、ペーニャ・ニエト前大統領とトランプの間の円滑な関係を築こうとした在メキシコのロベルタ・ジェイコブソン大使は、トランプが相手だとそれは不可能と判断して辞任するという結末もあった。彼女はラテンアメリカ外交で31年のキャリアをもつ専門家であったが、トランプの気まぐれ外交にはついていけなかったようだ。

中米3か国への“難癖”

中米3か国グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルからの米国への不法移民が減少しないとして、トランプはこの3か国への支援補助金の供給を止めた。その一方でこれらの国を「安全な第三国」と指定した。例えば、エルサルバドルから米国に不法移民を目指す者に対して米国がその受け入れを拒否して容易にエルサルバドルに送還できるということなのである。

しかも、「安全な第三国」となったからには米国から送還された者に対して住居、社会保障、保健サービス、職場、教育などを施す義務が受け入れ国で生じるのである。これはあくまで米国が不法移民者を本国に容易に送還できるための都合上の取り決めでしかない。

しかし、米国はこの3か国にそれを押し付けたのだ。それを拒否すればトランプがまたどのような難癖をつけて来るかわからないからである。この政策に反対を唱えていた中南米担当の国務次官補キンバリー・ブライヤーも辞任した。彼女は中米の政情を最も良く理解していた人物だった。

「南米のトランプ」に対しては…

ブラジルで極右のボルソナロ大統領が誕生し「南米のトランプ」と呼ばれていることにトランプは大満足した。ブラジルは米国から最新兵器も購入できるようになった。ところが、つい最近トランプはブラジルとアルゼンチンからの鉄鋼とアルミの輸入に追加関税を課すと発表。ボルソナロにしてみれば背中に不意打ちで刃物を刺されたようなものだ。

昨年6月G20でのトランプ、ボアソナロ両大統領の会談(ホワイトハウスFB)

また、アルゼンチンはアルベルト・フェルナンデスが大統領として就任する寸前であった。その後、この計画もトランプは撤回した。

コロンビアのドゥケ大統領がワシントンを訪問した際にトランプはコロンビアからの麻薬の密輸が増えているのを見て、トランプはドゥケに「あなたは我々のために何もしてくれていない」と言って不満を表明した。もっと別な表現で改善を求めることができるはずであるが、直情型のトランプにはそれができない。

キューバ外交はオバマ時代と180度の転換

キューバ・サンタクララ(Pighetti/flickr)

キューバもオバマ前大統領の外交とは180度異なった外交を展開している。キューバを封鎖する政策の復活である。それで得たものはキューバがロシアとの関係を強化するのに貢献しただけである。

またトランプはヘルムス・バートン法を持ち出して来た。これは1959年のカストロ兄弟によるキューバ革命で当時彼らに押収された企業の賠償を請求することを認めた法案である。これによって当時のキューバのホテルを改装して営業しているスペインのホテル業界では逆に迷惑を被っている。この法案が法制化された以降でも、これまでの米国大統領はそれを適用しなかった。

特に、オバマ前大統領はキューバへの米国企業の投資を促進させるためにこの法律は逆に葬り去られたかのような印象を与えていた(参照:lademajagua.cu

制裁一辺倒で効果薄のベネズエラ外交

ベネズエラではほぼ1年前にグアイドー暫定大統領を承認して50か国以上の国が彼を支持するようにさせた。ところが、1年が経過した今もキューバ、ロシア、中国の支援を受けたマドゥロ大統領が政権に就いたままで一向に進展しない。そこには米国の国務省と国家安全保障会議のベネズエラに対する対策の違いをトランプは統率できないという問題を抱えているのが要因のひとつだった。

最初は強硬派のジョン・ボルトン国家安全保障問題担当補佐官の考えに従い、その成果がないと見るやボルトンを解任。そして今、ポンペオ国務長官の外交に依存しているといった形だ。既に武力介入は否定している。そして、唯一繰り返しているのは制裁だけである。制裁による効果は既に薄いというのはこれまでの世界の外交で証明済みである。

ラテンアメリカは各国が異なった事情をもっていることから一つの統一した外交の展開は難しいが、人権の尊重という面については米国の外交はこれまでそれを一貫して尊重して来た。しかし、トランプはそれさえも無視する外交を展開している。

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白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

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