「黒川氏定年延長」と同じ“理屈”の「籠池夫妻判決」

2020年02月26日 14:00

先週水曜日(2月19日)に、大阪地裁で一審有罪判決を受けた籠池夫妻が、昨日夕方、判決書を携え、私の事務所に来られた。判決について意見を聞きたいということだった。籠池夫妻とは初対面だった。

釣り合わぬ量刑

私にとって最大の関心事は、この事件で、補助金適正化法違反ではなく詐欺罪を適用した検察の起訴に対して、裁判所がどのような判断を示したのかという点だった。

籠池夫妻が逮捕された際に、私は【検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか】と題する記事を著して、

詐欺罪と補助金適正化法29条1項の「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受ける罪」(以下、「不正受交付罪」)は「一般法と特別法」の関係にあり、補助金適正化法が適用される事案について詐欺罪は適用されない

と指摘し、多くのメディアの取材に対しても、この点について断言した。

補助金適正化法が適用されても、「無罪」となるかどうかは別である。しかし、その場合、被害額は、不正受給による「差額」となり、受け取った金額「全額」が被害額となる詐欺罪とは大きく異なる。法定刑もかなり異なるので、籠池氏の量刑にも大きな影響があったはずだ。

特に、妻の諄子氏は、府・市からの補助金詐欺は無罪、サスティナブル補助金の詐欺だけで懲役3年執行猶予5年を言い渡されており、もし、補助金適正化法違反であれば、有罪であっても、せいぜい罰金刑だったであろう。

政府答弁と酷似した判決内容に唖然

さっそく籠池氏に判決書を見せてもらい、該当部分を読んだ。

唖然とした。こんなものが「判決」と言えるのだろうか。全く理由にもならない理由で詐欺罪の適用を認めている。しかも、さらに、驚いたことに、その点についての判決の「理屈」は、最近、黒川東京高検検事長の違法な定年延長を容認した政府答弁と大変良く似ているのである。

前記記事を出した後、起訴の直前に出した【検察は籠池氏を詐欺罪で起訴してはならない】と題するエントリーで、補助金適正化法の「不正受交付罪」に関する立法時の国会議事録も調べ、その際の政府答弁も引用するなどして、詐欺罪の適用はあり得ないことを詳細に論じた。

補助金適正化法は、昭和30年(1955年)に制定されたものだが、詐欺罪と同法29条1項違反の罪との関係についての質問に対して、政府委員の村上孝太郎大蔵省主計局法規課長は、

偽わりの手段によって相手を欺罔するということになると、刑法に規定してございます詐欺の要件と同じ要件を具備する場合があるかと存じます。しかしながら、この補助金に関して偽わりの手段によって相手を欺罔したという場合には、この29条が特別法になりまして、これが適用される結果になります。

と答弁している。村上氏が著した解説書でも、「同法違反の予定する犯罪定型は、補助金等に関して刑法詐欺罪の予定する定型を完全に包摂しており」と述べており、立法経緯からは、適正化法違反が詐欺罪の特別規定で、同法違反が成立する場合には、詐欺罪は適用されないという趣旨であることは明らかだ。

学説も、ほとんどが不正受交付罪は詐欺罪の特別規定だとする「特別規定説」を支持しているが、「国の補助金の不正受給についても、補助金適正化法の不正受交付罪ではなく詐欺罪を適用できる」とする佐伯仁志氏などの少数説が一部にあり、その根拠として重視しているのが昭和41年(1966年)2月3日の最高裁決定で、そこでは両罪の関係について、

犯人側の為した行為自体は同一であり、相手方のこれに対応する態度の如何を構成要件の中に包含する罪とこれを構成要件としない罪とがある場合、検察官は立証の有無難易等の点を考慮し或は訴因を前者とし或はこれを後者の罪として起訴することあるべく

と判示しているが、同最高裁決定は、補助金適正化法が施行される直前の昭和30年(1955年)に被告人ら3名が国庫補助金を不正に受給しようと「共謀」し、同31年に施行された後にそれを実行して不正受給を行った事実を、検察官が補助金適正化法違反で起訴したことが「刑罰の不遡及を定める憲法39条に違反するのではないか」が争われた事案であり、国の補助金の不正受給に対して詐欺罪を適用した事案に対して判断を示したものではないことなどから、国の補助金の不正受給についても詐欺罪を適用できることの判例上の根拠となるものではないことを指摘した。

罰則運用の解釈を変えた検察

検察の実務では、一貫して、国の補助金の不正受給については、詐欺罪ではなく補助金適正化法違反を適用してきたのであり、両罪の関係について、不正受交付罪が成立する場合には詐欺罪は適用できないことを大前提にしてきたと考えられる。

また、最高裁も含め、裁判所も、同様の見解をとってきたことは、最近の裁判例からも明らかであり、「判例上、国の補助金の不正受給についても詐欺罪が適用できるとされている」とする上記少数説は、全くの筋違いだと指摘した。

確かに、補助金適正化法制定当時の「立法事実」は、現在の状況には適合しなくなっている面もある。しかし、国の補助金の不正受給事案に対して詐欺罪と同程度に重く処罰するのであれば、補助金適正化法違反の罰則の法定刑を引き上げるか、詐欺罪の適用を明文で認める立法が必要である。

検察が、従来の罰則の運用の前提となっている解釈を勝手に変えて、厳しく処罰することなど許されない。突然、籠池夫妻の事件に限って詐欺罪を適用して処罰するというのは、法治国家においてはあり得ないのである。

籠池夫妻の裁判でも、この点について、弁護人は、私の指摘とほぼ同様の理由を挙げて、仮に何らかの犯罪該当性が問題となるとしても、それは刑法上の詐欺罪ではなく、補助金等不正受交付罪のみであると主張した。ところが、一審判決は、以下のように判示して、詐欺罪の適用を認めたのだ。(段落記号は筆者)

[A]詐欺罪と補助金等不正受交付罪とでは、構成要件や法定刑等において、一方が他方を包摂する関係にはない点を指摘することができる。すなわち、補助金等不正受交付罪は、不正受交付の客体について、国が交付する補助金等又はそれを直接もしくは間接に財源とする間接補助金等に限っており、そのような限定のない詐欺罪と比べて処罰範囲が狭い。他方、補助金等不正受交付罪は、偽りその他不正の手段により、補助金等又は間接補助金の交付を受ける行為を処罰するものであり、詐欺罪のように、被欺罔者を誤信させ、その錯誤に基づき処分行為を行わせる点を構成要件として含んでいない点では、詐欺罪よりも処罰範囲が広い。補助金等不正受交付罪は法人に対する両罰規定があるという点で、詐欺罪よりも処罰範囲が広いという面がある。

[B]また、法定刑についても、補助金等不正受交付罪は、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はそれを併科するとしているのに対し、詐欺罪は、10年以下の懲役のみを法定刑としているのであって、補助金等不正受交付罪は、懲役刑の刑期及び罰金刑が選択できる点では詐欺罪より軽いが、選択刑として懲役刑と罰金刑の任意的併科があり得るという点では詐欺罪より重い面がある。このように、両罪は、構成要件と法定刑等のいずれの面においても、一方が他方を包摂する関係にはない。

[C]両罪の保護法益についてみると、補助金適正化法は、補助金等の交付の申請、決定等に関する事項を規定することにより、補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止等を図ることを立法目的に掲げており(同法1条)、同法の罰則が保護しようとする法益は、詐欺罪と異なり、必ずしも財産的利益に止まるものではないと解される。

[D]実際上も、補助金適正化法29条1項が刑法246条1項の特別規定であると解した場合、補助金適正化法の対象となる補助金等を詐取した場合と、同法の対象とならない地方公共団体の補助金等を詐取した場合とでは、実質的な違いはないのに、前者に補助金等不正受交付罪が適用され、後者に詐欺罪が適用される結果、処罰の内容に大きな不均衡が生じることになるが、それを合理的に説明することは困難である。

[E]これに対し、被告人両名の弁護人は、補助金適正化法の立法過程における国務大臣の答弁に照らすと、同法29条1項が刑法246条1項の特別規定であるという前提で成立したものであり、大蔵省の担当官による補助金適正化法の解説においてもそのような説明がなされていることなどを指摘する。しかし、立法経緯等は法解釈にあたっての参考とはなり得ても、絶対的な基準ではない。現時点において上記の通り補助金適正化法29条1項が刑法246条1項の特別規定であるという立場に合理性が乏しいと考えられる以上、仮に立法経緯等が弁護人が主張するとおりであるとしても、必ずしもこれに沿った解釈をしなければならないわけではない。したがって、弁護人の主張はいずれも採用できない。

この判示のうち、[A]も[C]も、立法時にこれらのことが当然の前提とされたうえで「両罪が特別法・一般法の関係」と説明されていたものである。[B]の「罰金の併科があるから重い」というのは、併科されるケースがそれほど多くないことに加え、罰金の最高額が高額であれば別として、100万円の罰金を併科できることを「重い」と評価するのは無理がある。[D]の自治体の補助金との比較は、私が上記ブログでも指摘しているところで、それを理由に処罰が不公平だというのであれば、法改正で解決すべきだ。

要するに、これらの判示は、「特別法・一般法」の関係を否定する理由には全くなっていないのである。

そして、何より驚いたのは、「立法経緯等は法解釈にあたっての参考とはなり得ても、絶対的な基準ではない。」「立法経緯等が弁護人が主張するとおりであるとしても、必ずしもこれに沿った解釈をしなければならないわけではない。」と述べている点だ。

黒川検事長の定年延長と同様

最近、これと同じような理屈を、閣議決定で黒川東京高検検事長の定年延長を決定したことの森雅子法務大臣等の政府答弁で聞いたばかりだ。

黒川検事長(東京高等検察庁HPより:編集部)

国家公務員法の定年延長に関する規定について、立法時に、国会で「検察官には適用されない」との政府答弁が行われていたのに、その解釈を「閣議決定で変更した」ことに対して厳しい批判が続いている。

【黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い】【「検事長定年延長」森法相答弁は説明になっていない】でも書いたように、検察庁法の趣旨から考えても、検察官に対しては国公法の定年延長の規定の適用はないというのが当然の解釈であり、しかも、それを前提に、これまで、戦後長きにわたって検察の組織内で、検事総長・検事長等の幹部人事が行われてきた。それを、突然、従来とは異なった法解釈を行うのは、新たな立法を行うのに等しく、閣議決定という「行政の判断」で行えることではない。

それと同様のことが、今回の籠池夫妻への一審判決に対しても言える。裁判所の役割は、国会が制定した法律を適用することであり、立法する権限は与えられていない。補助金適正化法の制定の際、国の補助金の不正受給については、補助金適正化法の不正受交付罪が成立する場合には同法が適用され、刑法の詐欺罪は適用されないとの解釈が示され、それを前提に国会が法案を審議して制定し、それ以降、検察の実務も裁判も、不正受交付罪が成立する場合には詐欺罪は適用できないとの前提で行われてきたのである。

それを、突然、解釈を変更し、詐欺罪を適用するというのは、裁判所が立法を行うに等しく、到底許されることではない。しかも、不正受交付罪の法定刑は5年以下の懲役又は罰金であるのに対して、詐欺罪は10年以下の懲役と、遥かに重いのである。

検察捜査の不可解な点

しかも、この籠池氏に対する検察の捜査をめぐっては、誠に不可解な点が多々ある。

【籠池氏「告発」をめぐる“二つの重大な謎”】で指摘したように、2017年3月29日に、NHKを始めとするマスコミが「大阪地検が、籠池氏に対する補助金適正化法違反での告発を受理した」と大々的に報じた。その経過からすると、明らかに検察サイドの情報を基にしていて、その情報は何らかの政治的な意図があって東京の法務・検察の側が流したもので、それによって「籠池氏の告発受理」が大々的に報道されることになったとしか考えられない。

しかも、その頃、まさに「自民党・政府が一体となった籠池氏の犯罪者扱い」が始まっていたのである。3月23日の衆参両院予算委員会の証人喚問での「安倍首相から100万円の寄附を受けた」との証言が社会的注目を集め、「時の人」となった籠池氏に関して、同月27日に自民党本部で緊急の記者会見が行われ、衆参両院で証人喚問を受けた籠池氏の複数の発言について、議院証言法に基づく偽証罪での告発のための調査を行うことが明らかにされた。

その「補助金適正化法違反の告発」に関しては、私自身、3月中旬に、マスコミ関係者を通じて事前に相談を受け、告発状案にも目を通していた。「請負契約書が虚偽だったとしても、国の側で審査した結果、適正な補助金を交付した」と報じられており、偽りその他不正は行われたものの、それによって補助金が不正に交付されたのではないと考えられること、森友学園は既に補助金を全額返還していたことから、過去の事例を見ても、よほど多額の補助金不正受給でなければ、全額返還済みの事案で起訴された例はないため、「籠池氏の補助金適正化法違反による起訴の可能性はゼロに等しい」と明言していた。要するに、補助金適正化法違反であれば、告発が受理されないか、受理されても不起訴になるのが当然の事案だったのである。

ところが、従来の検察実務からはあり得ない「詐欺罪の適用」が行われて籠池氏が逮捕されたことは、その後、同年10月に、森友・加計学園問題での逆風に逆らって解散・総選挙を強行した安倍首相を著しく利する結果になった。

森友学園問題についての説明責任を全く果たさないことをテレビの党首討論で追及されるや、「籠池さんは詐欺を働く人間」などと言ってのけたのである(【「籠池氏は詐欺を働く人間。昭恵も騙された。」は、“首相失格の暴言”】)。籠池氏の罪名が「補助金適正化法違反」であれば、このような発言はできなかったはずだ。

このように、終始、安倍首相にとって絶好のアシストを続けてきた検察に大きな影響力を持つ事務次官のポストにいたのが、検事長定年延長問題の渦中にいる黒川弘務氏なのである。

補助金適正化法の制定趣旨も、それまでの検察実務も裁判例も無視し、籠池夫妻に無理やり詐欺罪を適用して逮捕した「国策捜査」を、そのまま容認したのが、今回の大阪地裁判決だ。まさに「国策判決」というべき不当極まりない判決である。行政が国会の立法の趣旨を勝手に変える解釈変更を行い、裁判所も、立法趣旨を無視した判決を出す。このようなことがまかり通る国が「法治国家」とは到底言えないことは、誰の目にも明らかであろう。

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