投資誘致策の妙手も…ポルトガルの「ゴールデン・ビザ」年内廃止へ

ポルトガルは財政再建にユーロ圏が要請していた緊縮策を実施せずに公共投資を積極的に行い、公営事業の民営化にも反対し、更に最低賃金を上げたりして経済の回復を達成した。

また経済の回復には外国からの投資も必要であるが、ポルトガルは地政学的に外国の企業が投資の対象にするには魅力が少ない。2017年の統計でも、ポルトガルの企業投資はGDPの16%でしかなく、EU加盟国の中で企業投資が最も少ない国のひとつであった。(参照:elconfidencial.com

ポルトガル首都リスボン(Ulrika/flickr)

外国からの投資呼び込み妙案

この投資不足を補うべく2009年から実施された妙案が成功した。外国の富裕者に対してポルトガルに資金を持ち込めばタックスヘイブンになる。また、彼らが居住する為の「ゴールデン・ビザ」の発行も容易にするとしたのである。

ゴールデン・ビザの発行の条件として当初ポルトガル企業に50万ユーロ(6500万円)以上の投資、あるいは同額以上で不動産への投資をすること、そして、年間で183日ポルトガルに滞在するということを条件とした。その後、この金額が改正されて20万ユーロ(2600万円)以上ということになった。ゴールデン・ビザの取得によって滞留許可は10年というのが容易になった。(参照:libremercado.com

不動産の投資ということは即ち居住するための住宅を受けて購入すればよいのである。

ゴールデンビザ取得の広告(XIPHIAS IMMIGRATION/flickr)

ゴールデン・ビザの取得者は外国からの入金に対して、それが如何なる名目であれ課税の対象にはならないことになっている。この特典を利用して既に5000人がゴールデン・ビザを取得しているそうだ(参照:libremercado.com)。

またヨーロッパの年金受給者の場合はポルトガルの銀行に預金するだけで、本国から送られる年金が課税の対象にならないという利点がある。この対象になるのはEU諸国以外に米国、ブラジル、日本とも合意が結ばれているとしている(参照:lavozdegalicia.es)。

ゴールデン・ビザ廃止に転じた背景

ところが、この政策が実はポルトガルで近く廃止されることになったのである。そして、外国で得た所得に対してこれまで無税であったのが、10%の課税が課せられることになる。理由は、特にリスボンとポルトでの不動産の価格高騰とEUの加盟国からの圧力が影響したのだった。

例えば、英国だと本人が英国に住んでいないということで課税の対象にされない。また、ポルトガルでも無税ということで、どこにも税金を納める必要がなくなるという好条件に恵まれることになった。日本の場合だと仮に日本に住んでいない日本人でも源泉徴収を払う義務が発生している。

英国はEUからの離脱ということもあり英国の将来が読めないということもあって、多くの英国人が今もポルトガルに移住することに強い関心を示している。

その後、この条件が緩和されて投資しなくても、ポルトガルで住宅を借りて少なくとも180日はポルトガルで生活するということを条件に10年の永住権が取得できるようにした。これは特に外国の年金受給者がポルトガルで容易に生活できるようにする為である。

ところが、次のような出来事が発生してこの政策を維持することの意味が薄れたのである。

消えゆく移住者への減税メリット

2009年にこの政策を採用してから10年余り経過しているが、実際に外国からポルトガルに住み始めた外国人は33000人ということで、政府は最も多くの移住者が来ることを当初期待していた。スペインからポルトガルに移住した年金受給者は6300人。(参照:libremercado.com

ポルトガルの方が物価が安いというのが利点だ。それを示す指標のひとつに最低賃金がポルトガルは650ユーロ(76700円)に対してスペインは826ユーロ(97500円)となっている。ちなみに、フランスは1480ユーロ(175000円)だ。

移住者のうちで今も就労している人は僅か8%で、特にフランスからの移住者でフランスで課せられる高い税金から逃れるのが理由だという。

しかし、今回ポルトガルがそれに対して10%の課税を課すようになる。但し、すでにポルトガルに移住してゴールデン・ビザを取得している者に対してはこれまでと同様に無税となっている。

フィンランドとスェーデンからポルトガルへの移住者は僅か2000人しかいないのであるが、この両国政府はこのシステムの撤廃を要求している。(参照:elpais.com)。

この10年余りで特にリスボンとポルトで不動産の価格が急騰しているため、移住して来た年金受給者はこの中心部から離れた場所に住まねばならなくなっている。(参照:abc.es

当初良いアイディアであったが、不動産の高騰とEUの加盟国からの圧力が結局ポルトガルを以前同様に魅力の薄い国に逆戻りしようとしている。