マスクの抱き合わせ販売は独禁法違反の疑い

2020年02月28日 06:02

マスクの品薄が深刻である。原因はもちろん新型コロナウィルスである。

マスクによる予防のために(その効果については消極的な意見が強いようだ)人々が買い漁った結果、他人にうつさないためのマスクを必要とする人に行き渡らない非効率な状況が生じかねない。インフルエンザ患者もいる。花粉症患者にはマスクは症状緩和のために有効だという。

しかしこの種の問題に「効率」を言い出すと、興奮して批判を始めるタイプの知識人がいる。健康や生命の問題こそ冷静な判断が必要なのに。

マスコミでこれだけ危機感を煽られれば、人々は当然、過度に不安になってしまう。消費者はむしろ被害者だ。アルコール消毒液やウェットティッシュなども品切れになっている。もう一つステージが進めば、次は生活必需品かもしれない。石油ショックのとき、人々がトイレットペーパーに殺到したように。

マスクの抱き合わせ販売が表面化した有名ドラッグストア(写真AC)

人々が不安になったとき、足元を見る業者が現れる。市場の論理はそういうものだ。買い占めて値段を吊り上げるのは典型的だが、中には「抱き合わせ」をする業者も現れる。在庫がかさんで早く処分したい商品と人気の商品を抱き合わせて販売することだ。

関連性のないものをくっつけるのは露骨だが、「〇〇セット」と称して、うがい薬とか風邪薬とか、あるいは花粉症の薬などと抱き合わせて高額で販売するやり口もある。

そんな業者も出てくるだろうなと思っていたら、案の定、こんなニュースを見かけた(2020年2月26日の共同通信ニュースより)。

公正取引委員会の菅久修一事務総長は26日の定例記者会見で、新型コロナウイルスの影響で品薄が続く使い捨てマスクを、一部事業者が別の商品と抱き合わせて販売している実態があるとして「独禁法上問題になるような行為があれば、必要な調査をして適切に対応していきたい」と述べた。

読売新聞の記事によれば、この業者(ドラッグストア)は

2月以降、16店舗でマスクを買い求める客に、熱冷ましの冷却シートや栄養ドリンクなどと抱き合わせる形で販売していた。通常のマスクは1箱500円前後だが、最高で9000円前後で売っていたケースもあった。

とのことである。

かつて、人気のコンピューターゲームのソフトウェアを入荷した卸売業者が、在庫処分したい売れないゲームソフトと抱き合わせて小売業者に販売して、抱き合わせ規制違反とされたケースがある。必要なものをどうしても購入したい者が、抱き合わされた不必要なものの購入を余儀なくされることを問題とする規制である。マスクの抱き合わせのケースはこのケースに近い。

最近では、ある商品で支配的な立場にある業者が、他の商品を抱き合わせることで後者の競争相手を排除して市場支配を実現するタイプの抱き合わせ規制の適用がスタンダートなものとして考えられている(その先例としてマイクロソフトによるエクセルとワードの抱き合わせの事件がよく知られている)が、今回のマスクのケースは抱き合わせ規制のかつてのスタンダードだったケースである。

ぱくたそ

値段を高くするだけのケースはどうか。これは独禁法の規制の対象外だ。要らない商品の購入を余儀なくされることが問題視され独禁法違反になるというのであれば、不当に高い価格での購入を余儀なくさるケースは何故に問題にならないか。

マスク一箱2万円などとべらぼうな値段をつけているネット販売業者もいるではないか、という声は当然出てくるだろう。しかし独禁法には需要過多で値段が吊り上がることそれ自体を禁止する規定は存在しない(最近話題の優越的地位濫用規制は条件次第で適用の可能性があるとはいえる)。

何故ならば、価格は需給バランスで決まるのであって、高価格販売を禁止することは市場の自律的な価格調整機能に介入することになるので、さすがの独禁法も手を出せないということなのだ(一方、価格が極端に安いとき独禁法はこれを問題視する。支配的な業者が競争相手を潰し、その支配を維持、強化するためだけの略奪的な価格設定は違反とされている)。

だったら抱き合わせだっていいではないか、という意見がありそうである。しかし、抱き合わせの場合は、マイクロソフトのように市場支配的な立場を利用した競争者の排除が問題とされるか、あるいはゲームソフトのケースのように(本来的に市場メカニズムが予定していない)不要なものを押し付ける行為が問題とされている。価格の高低だけの問題とはその問題の性質が異なるのである。

消費者の不安に乗じて儲けようとする業者はこれからも多く出てくるだろう。公正取引委員会のみならず不当表示規制(景品表示法)を所管する消費者庁にも監視の目を厳しくしてもらいたい。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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