新型肺炎患者の「再発」問題

長谷川 良

新型コロナウイルスの感染が広がる中国で、1日午前0時時点で死者数が前日より35人増で総数2870人、感染者は573人増で7万9824人となった。いずれも増加数は減少傾向が続いてきたことから、「4月までに新型肺炎問題を克服する」という中国側の表明も信頼性が出てくる。同時に、中国国営メディアが新型肺炎から回復した患者について大々的に写真付きで報道しているのを見る度に、「新型コロナウイルスは峠を越えたのか」といった印象を受けてしまうほどだ。

▲新型肺炎から回復した患者とその家族を見送る医者(2020年2月23日、新華社公式サイトから)

▲新型肺炎から回復した患者とその家族を見送る医者(2020年2月23日、新華社公式サイトから)

その一方、欧州全土で新型肺炎の疑いある患者が次から次へと見つかっている。欧州最大の感染国イタリアでは、同国保健省が29日発表したところによると、感染者数は1000人を超え、死者は29人と増加。そして、イランでは政府関係者の感染が明らかになった、というニュースに接すると、「新型コロナウイルスは発生源の中国から欧米諸国や中東にその感染地を移動してきた」とさえ思える。

中国国営通信社の新華社では最近、新型肺炎が回復したため退院する患者とそれを見送る医者たち、といったサクセス・ストーリーが写真付きで大きく報道されてきた。退院患者が増えている、というニュースは朗報だが、治癒し、退院した患者に再び核酸検査(PCR検査)で陽性反応が出たという記事も同時に増えてきているのだ。

大阪の40代の女性ガイドが1月、新型コロナウイルスに感染し、大阪府内の病院に入院。症状が回復し、陰性が確認されたため、女性ガイドは2月1日退院したが、再び症状が出て陽性になった、というニュースが報じられたばかりだ。

通常、ウイルスに感染すると、体内に抗体が作られるから、同じウイルスに再び感染することはない、とこれまで考えられてきたが、中国湖北省武漢発の新型コロナウイルスの場合、少々異なっている。

海外中国メディア「大紀元」は先月29日、「治癒後、複数回検査で陽性反応、『ウイルス保有の可能性』武漢大学病院の研究チームが論文」という見出しで、新型肺炎からいったん回復した患者がその後、再びPCR検査で陽性反応が見られることについて、専門家の論文を紹介していた。非常にタイムリーな記事だ。

武漢大学中南病院の研究チームが先月25日、米医師会の専門誌「ジャーナル・オブ・アメリカン・メディカル・アソシエーション」に掲載した論文のタイトルは「新型コロナウイルス回復者のPCR検査陽性結果」だ。

それによると、4人の治癒者は医療関係者であり、患者の治療にあたり、自身も感染した。患者は軽度から中度の症状で、年齢は30から36歳、男性2人と女性2人。3人に発熱や咳などの症状があり、1人は無症状だった。しかし、全員のCT画像にすりガラスのような影が認められ、PCR検査で陽性反応が出た。そして治療後、退院、隔離措置を解除した。その後、再検査したところ陽性反応が出たというのだ。大紀元によると、「4人には症状がなく、胸部CT画像は治癒時と変化していない。新型肺炎の患者とも接触していない」というのだ。

参考までに、「新型肺炎から回復した」と判断する基準は、①体温が3日間以上正常であること、②呼吸器官の症状が改善されたこと、③胸部CT画像で急性滲出性病変が著しく改善され、④1日おきのPCR検査が2回とも陰性であること、等の4つの条件が全部満たされた状況という。

研究チームは、「退院患者、または隔離措置が解除された患者のフォロー方法を再考すべきだ。退院後、14日間の隔離が必要であり、退院後の第2週と第4週に病院で再検査を受けるべきだ」と提言している。

ちなみに、中国南部広東省政府は先月26日、新型コロナウイルスの感染患者で、治療を受け、退院した人の14%に再びウイルスの陽性反応が出たと発表している。ウイルス専門家の中には「いったん回復してもウイルスが再び増殖する『持続感染』が考えられる」と主張する声が聞かれる。

世界保健機関(WHO)と中国専門家たちは先月29日、「新型コロナウイルスは感染力が強く、これまでの対応では人命を救えない恐れがある」という調査報告書を明らかにした。それに先立ち、WHOのテドロス事務局長は28日、新型コロナウイルスのリスク評価を「高い」から「非常に高い」に引き上げている。

回復者の感染再発のニュースは、新型コロナウイルスとの戦いが短期戦ではなく、長期戦となることを強く示唆しているだけに、私たちはパニックに陥らず、冷静になって、可能な限りの感染防止の努力を続けていくべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。