機関投資家が「目的ある対話」として社外取締役に質問したい内容とは?

2、3年ほど、社外役員さんの支援をさせていただいた経験から、「機関投資家は社外取締役のどこをみてガバナンスの評価をしているか」ということに興味を持ちました。以前、頭の中で想定していたのは「自社取締役会の実効性評価の話」だったり、「ESG経営やCSR経営への社外取締役の関与」だったり、「監査能力や内部統制に関連する話」などを聞かれるのではないかと思っておりました。

写真AC:編集部

しかし、実際のところは、そのような質問は皆無でした(少なくとも私が経験したところでは)。むしろ、対話の相手が社外取締役であったとしても、短期的利益の向上に関する話がほとんどです。

たとえば
①機関投資家が当該企業の業績向上に必須とみているKPI(重要業績評価指標)について、その数字の変動は社内のどのような事象に起因していると思うか(当該KPIは、各投資家によって異なることが対話によって理解できます)

②利益率、売上の今後の向上もしくは低下については、どのような条件(経営環境、同業他社との戦略の違い、国の政策等)に依拠していると考えているか(この「経営環境」のところでSDGs等も含まれるのかもしれません)

③貴社の場合、〇〇のようなコスト削減が喫緊の課題だが、そのようなコスト削減は中長期の企業価値向上にどんな影響を及ぼすと思うか

④資本政策(自社株取得、配当、内部留保)についての貴社の前向き(後ろ向き)な姿勢をどう評価しているか

⑤中期経営計画の実施にあたり、未達となる原因があるとすれば、どういったことか

といったところかと。

CEOは機関投資家に夢を語ります。その夢が正夢になるのか、悪夢になるのか、そこのところを社外取締役からの話で補完したい。社外取締役との「目的ある対話」によって「あなたはどれだけ会社のことを勉強していますか?どれだけ利益率や売上の向上に関心を持っていますか」ということを知りたい、CEOを監視するにふさわしい能力を持っていることを知りたい、というのが最大の関心事だと思います。

会社の有事ともなれば社外取締役の出身とか専門性などにも関心を持たれるのかもしれませんが、平時においては、そんなことよりも会社の経営にどれだけコミットメントしているか、という点に注目しているようです。

なにかの想定問答集に出てくるような、誰でも「使いまわし」ができるような回答は求められていません。機関投資家は「身銭を切って」リスクを背負った人たちであり、当該会社のことをよく勉強しています。社外取締役も、当該会社の短期的利益の向上に関心を持つことが大前提であり、そのうえでの「中長期的企業価値向上への寄与」だと考えるのが現実的です。

「守りのガバナンス」を重視することは、たしかに企業経営に安定をもたらすものとして資本コストを低下させますが、機関投資家の購買意欲を掻き立て、株式価値を高めるものはエージェンシーコスト(社内における経営監督者としての能力)だと痛感しています。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年3月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。