セブン高額マスク問題:「仕組み利用ビジネス」としてのコンビニ

2020年03月06日 11:31

セブン・イレブンのある店舗でマスク一箱を16900円で売っていたとの報道があった(日テレNEWS「セブン マスク60枚1万6900円で販売」)。セブンの店舗がセブンの本部の了承なしに勝手に売っていたのであろうから、セブン本体を責めるのは筋違いである。

むしろフランチャイザーとしてのセブン・イレブンからすれば、「いい迷惑」ということになる。もちろん、店舗への「指導不足」の批判は免れない。セブンのブランドで顧客を店舗に向かわせているのだから、そこで生じた不信はセブン自体に向けられた不信となる。

Wikipedia:編集部

セブン・イレブンは、最近、24時間営業や元旦営業などを拒もうとするコンビニ・オーナーと対立していることで報じられることが多い。

自らのビジネス・モデルに従えないのならば、そのブランドを使わせたくないというのは、フランチャイザーとしては当然の理であって、その点だけ見ればフランチャイザー側に分が有りそうに見える。

しかし、コンビニ・オーナー側が「過酷な労働」をアピールすることで今の世論はフランチャイジーを擁護する傾向が強い。

大企業vs中小企業の構図で語られるコンビニ・ビジネスは、「契約の自由」では突破できない、「評判」という高いハードルがある。最近では、公正取引委員会が優越的地位濫用規制によって援護射撃してくれそうなので、コンビニ・オーナー側は強気である。数年前には、深夜営業等の強要を止めるようコンビニ・オーナーが争った訴訟ではセブン・イレブン本部が勝訴していることを考えれば、急展開である。

フランチャイズと呼ばれるコンビニのビジネスは、言い方を換えれば「仕組み利用ビジネス」「ブランド利用ビジネス」である。つまり、フランチャイザーが構築し改良してきた販売手法を、外部のオーナーが「統一のブランド」の下で利用して事業を行うビジネスである。

脱サラして自分でコンビニを始めようと思うのなら、「〇〇ストア」みたいな名前を付けて一人で立ち上げてもよい。しかし、そんなノウハウは脱サラしたばかりの素人にはない。セブンやファミマ、ローソンといった確立した経営ノウハウ、ブランドに乗っかるのが一番早いし、効率的である。

コンビニ・ビジネスはある種のプラットフォーム・ビジネスである。セブンならばセブンというプラットフォームをオーナーが利用し、自らそのブランドで顧客に接する。顧客はセブンというプラットフォーム(化された店舗)で購入し決済するが、契約自体はオーナーと顧客の間でなされる。オーナーはセブン本部との契約に基づき、一定のコミッションを支払う。

つまりコンビニはオーナーと顧客を統一ブランドとしてのプラットフォームの中でマッチングさせるビジネス(収益は手数料)であるということになる。そういう(プラットフォームという)感覚が直ぐに馴染まないのは、コンビニのブランド・イメージが強く、実態としても顧客側から見れば直営店で購入するのと変わりはないからであり、プラットフォーマーのイメージが主として「GAFA」と呼ばれる「デジタル・プラットフォーマー」によって形成されているからである。コンビニはただの店舗販売である・・・このイメージがコンビニの抱える問題の本質を見えなくさせている。

プラットフォーム・ビジネスの代表格は楽天のようなネット通販である。「市場(いちば)」という名前からもわかるように、ここでいう楽天のビジネスは「場」の提供であり、その本質はマッチング・ビジネスである。ネットワーク効果をフルに活かしたこのビジネスは、閲覧と購入の手続きの手際の良さが決定的に重要である。

店舗は楽天のブランドで売っているのではなく、楽天の市場で売っている。だからマスクが一箱1万円とか2万円のような店舗が出てきてもそれは楽天の問題ではない、ということになる。コンビニよりもはるかに店舗側の自由度の高いビジネスなのである。もちろん「星1つ」の店舗が多ければユーザーは離れていくので、間接的には楽天が困ることにはなる。

ウーバー・イーツも、プラットフォームを利用した(させた)マッチング・ビジネスである。ウーバー・イーツはあくまでも配達者と顧客を結ぶツールを両者に提供する「テクノロジー提供」のビジネスであって。各々の配達者は独立したフリーランス人材としての事業者である。条件面をめぐって配達員側とウーバー側で色々、問題が噴出しているのは各種報道の通りである(例えば、日本経済新聞2019年12月5日記事「ウーバーイーツの労働組合、報酬下げの説明要求」など)。

筆者は、昨年12月、黒鳥社の若林恵氏がファシリテーターを務める読書会「66ブッククラブ」(六本木アカデミーヒルズ)にゲストスピーカーとして参加した。そこで扱われた素材は『ウーバーランド』(アレックス・ローゼンブラット著)であった。

デジタル・プラットフォーマーが「シェアリング・エコノミー」「ギグ・エコノミー」といった現代的な「働き方」にどのように関連し、どのような問題を引き起こしているのか、豊富な事例を基に詳細で深い考察がなされている、当に「今、読むべき一冊」である。

そこで出てくるドライバーは事業者である、労働者ではない。これは労働問題ではあるが、労働法の問題ではない。だとするならば、どうすればよいか。ウーバーが今後日本市場でどのように展開していくのかは、筆者には予想がつかないが、この『ウーバーランド』が論じていることの一部は、すでにウーバー・イーツの一連の問題で見て取ることができる。

ウーバーはデジタル・プラットフォーマーという意味では楽天に近いが、働き方の問題という意味ではコンビニに近い問題を抱えている。また公正取引委員会の関心事としては、GAFA規制の文脈とフリーランス人材をめぐる各種契約への独占禁止法の適用という文脈の中間に位置付けられよう。

コンビニと楽天、同じプラットフォーム・ビジネスでありながら、ビジネスの内容それ自体に深くプラットフォーマーが関わるコンビニと、ビジネスの場の提供に徹するネット通販。この違いが独占禁止法上の優越的地位濫用規制の適用のあり方に影響をもたらすとすればそれは興味深いことであろう。そしてウーバーの問題がどう関連するかも、今後見逃せない。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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