コロナ渦中で新しい映画ビジネス?インディペンデント作品の定額配信

新田 哲史

新型コロナウイルス感染拡大が映画界を直撃している。私の愛してやまない『007』シリーズは、4月に予定していた最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の公開延期が決まった。福島第一原発事故の格闘を描いた『Fukushima 50』も3.11からまもなく9年に合わせて封切りしたタイミングでの直撃だった。同作を6日の初日に知人が夫婦で見に行ったところ、平日とはいえガラガラだったそうだ。渡辺謙、佐藤浩一の二枚看板の大作だけに気の毒でならない。

ただ、大手資本の映画は辛うじて経営体力があるほうだから多少マシだ。小劇場で細々とやっている独立系のインディペンデント映画は、今後のコロナ問題の影響が長引けば劇場経営の根幹をいち早く揺さぶりかねない。劇場だけでなく、作り手側にとっても、ただでさえ発信力や知名度に難があったりして、上映機会が限定的で、資本回収も難しいとされるだけに、ひとつの文化が失われる危機に直面する。

プレスリリースより

そうした中で、コロナ渦の問題が起きる前から準備し、すでに発表していたのだが、私の大学時代の友人、福島亨君が新しいビジネスを立ち上げようとしている。インディペンデント映画の定額配信サービスで、『シネマディスカバリーズ』と銘打った。

ユーザーは月額1100円(税込み)で視聴でき、再生回数に応じて作り手に支払われる。インディペンデント映画はよほどの映画好きでないと、知らない作品、作り手が圧倒的だ。そうした知名度不足を補う方法として、「映画ライターなどのプロが『知られざる名作』を推奨し、会員がプロの目利きを参考にして作品を鑑賞」(リリース)するという。

大学時代、福島君とは放送研究会で一緒に作品も作ったことがあるが、映像制作への情熱はなかなかのものだった。就職氷河期真っ只中で、一度はテレビ系の仕事を断念し、アパレル某社に入ったがすぐに退社。CM制作会社に勤務し、経験を積んだ。ここ10年くらい会っていなかったが、30代後半で独立し、CMやウェブの映像制作プロクションを設立していたという。

新事業を立ち上げる福島氏(中央:readyfor.jpより)

さらに映像ビジネスを本格的に展開するべく、近年はグロービスで経営も学んで新事業の模索を続けてきた。そのなかで、インディペンデント映画業界の作り手、ミニシアター、観客の織りなす“エコロジー”を、持続可能にする新しいモデルを構築したいという思いを強めた。知る人ぞ知る名作が埋もれてしまうということが多いインディペンデント映画業界にあって、視聴機会、資金調達、資金回収の3つの課題解決を掲げている。

プレスリリースより

製作費の一部はクラウドファンディング(Ready for)で調達中で、3月末までに目標100万円のところ55万円をすでに集めた(3月8日未明時点)。

インディペンデント映画から日本映画界に変革を!は、あと23日で、約75人からの協力がないと支援が届きません。ひとりでも多くの方に広めてください!

アメリカではゲームメーカーなどが資金だけでなく、ファンのフィードバックで改善点に生かす取り組みもやっているので、コアのファンに支えられているインディペンデント映画らしく、一緒に作り上げるサイトになると面白いかもしれない。

インディペンデント映画は近年、『カメラを止めるな』(カメ止め)が話題になった。少し先に競合も出てきたらしく、新しいブームの兆しがあるのかもしれない。「日本の映画界を裾野から盛り上げていきたい」と福島君。新型コロナで映画界は大きな経営的試練に直面しているが、3.11後に急成長したLINEのように、新しいビジネスが生まれる機会は間違いなくある。まもなく5Gの実装が日本でも本格化し、映像ビジネスの可能性は大きい。『シネマディスカバリーズ』も、新たな波に乗ってもらいたいと思います。