崩れる協調、下がる原油価格

原油価格の下落が激しさを増してきました。3月6日には一日に10%という下落幅を見せた原油価格は弱気の株式市場を反映しただけではなく、サウジアラビアとロシアのすれ違いが見せた価格調整の限界が反映されたものであります。

(写真AC:編集部)

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ニューヨークマーカンタイルの金曜日の終値が41.57ドル。経済が沈滞化すると原油価格は下がりやすくなるため、この先、40ドル割れしてもおかしくないどころか、原油取引市場がそもそもそれほど大きくないため、価格が一方通行になりやすい特徴があり、いわゆる価格の「底抜け」する公算もあるかもしれません。

更に交渉決裂を受けてサウジが増産に動くと報じられており、価格下落に拍車をかける可能性も出てきました。原油を輸入する日本にとっては円高傾向も含め、お得感が強まりますが、世界経済という枠組みでみると大きな禍根を残すことになります。かつて経験した20ドル台も幻ではなくなります。

サウジとロシアは「OPECプラス」という枠組みでロシアがOPECのメンバーではないものの実質的に協調歩調をとってきました。経済が比較的順調な時はそれでよいのですが、このように下向きになってくると「我慢度」に温度差が出てきます。サウジは歴史的に原油価格の指導権を持ち続けてきたため、非常時の調整弁を持ち出し、より減産を打ち出しました。ところがロシアは「ずっと減産しているのに更に減産とは何事か」と怒りだし、「もう協調路線は終わりだ」というスタンスにあるのです。

このところ、ロシアのわがまま振りには目も当てらないのですが、プーチン大統領は協調減産でも「俺は知らん」とプイと横を向いてしまったのです。

さて、この原油価格の崩落で案外困るのがアメリカのシェールオイル業界であります。アメリカはこのシェールオイルで確かに原油輸出国になったのですが、この業界に過去10年で投じられたとされる43兆円の資本はほとんど回収できていないとされています。

かつてはOPEC対シェールオイルの戦いもありましたがシェールオイルの技術革新、経営効率改善などでシェールオイル側に軍配が上がり、その存在感をぐいぐい押し出してきたのであります。しかし、そこに資金を投じている人にとっては何も面白くない投資であるとすれば今後、それが続くというシナリオを描くのは難しいでしょう。

個人的にはロシアの戦略の中にアメリカのシェールオイル潰しは一つあるのだろうとみています。OPECプラスの枠組みがなくなればロシアは誰に縛られることなく原油を好きなだけ供給できます。「諸刃の剣」ではありますが、アメリカシェールオイル業界はこれ以上の原油価格下落では採算が取れないどころか、産油する意味がなくなってしまいます。資金の出し手がなければ新規のリグも増やせなくなるため、一時的にアメリカの動きを止めることが可能になります。

個人的にはロシアやサウジの戦略は正しいとは思いません。新型肺炎に端を発した世界経済の大変調は一時的なものであり、時期が来れば大車輪で回復していくことは容易に想定できます。言い換えれば今の世界経済は「かけたくないブレーキをかけさせられている状態」であり、新型肺炎問題が収束に向かえば原油価格は自然に元の位置、60~70ドル程度という居心地の良いレンジに戻るバイアスがかかるわけでアメリカシェールも当然、ゾンビのように復活するのであります。

私は2008年のリーマンショックの時を昨日のことのように覚えているのですが、世の中パニックに近い状態になると会社のキャッシュフロー維持のため、赤字を厭わずにとんでもないバーゲンが繰り広げらます。08年の12月に当地で自動車の新車のtwo for one(2台買うと1台無料)という後にも先にもあの時しか見たことがないセールすらあったのです。

ロシアの原油政策もキャッシュフロー維持のためには何が何でも売りたくてしようがないという実は懐が相当痛んでいる証拠なのかもしれません。ロシアも中国同様、内部では何が起きているのかわかりにくい国ですが、あの国の財政が健全だとは誰も信じていないはずで苦し紛れの減産拒否だったと考えた方がしっくりいくのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年3月9日の記事より転載させていただきました。