新型肺炎と“Stay at home”ビジネス

長谷川 良

中国武漢発の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界経済の失速を受け、今週明けの金融市場ではいずれも株価は大幅安となっている。世界100カ国で感染が確認され、中国本土ばかりか欧州でも多数の犠牲者が出ている。世界の経済活動が停滞せざるを得ない状況だ。今年第1四半期の営業業績はいずれも厳しい見通しとなってきた。

新型コロナウィルスの世界的感染拡大で株価が下落(2020年3月9日、ドイツ株価指数(DAX)を示すフランクフルト証券取引所の表示板)

ところが、世界経済が苦境の時にも営業業績を伸ばしている企業があるという。感染防止用のマスクの製造業者や消毒液メーカーだけではない。英紙ガ―ディアンによると、米国の大手通信販売アマゾン(Amazon)とオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信会社ネットフリックス(Netflix)の2社だ。CNNビジネス電子版は2日、「Coronavirus is helping Netflix, Amazon and other “stay at home” Stocks.」と報じている。

理由はここでも新型コロナウイルスだ。新型肺炎が世界的に拡大することで、多くの人々が感染を恐れ、外出を控えるようになる。外出して買物をする代わりに、アマゾンを利用してオンラインショッピングに切り替える。ここ数年前から見られた現象だが、クリスマスや誕生日のプレゼントをオンラインで選ぶ人が増えている。それが新型肺炎の拡大で消費者のオンラインによるショッピング志向がさらに進んできたわけだ。

それだけではない。コンサートや映画館が閉鎖され、スポーツでもサッカー試合は中止されるなど、イベントや娯楽が少なる一方、学校や大学は休校となるので、高齢者ばかりか、若者も自宅に留まるケースが出てきた。その結果、アマゾンやネットフリックスが配信する最新米国映画、シリーズものを見る機会は増える。「風が吹けば、桶屋が儲かる」といった論理ではなく、非常に現実的な進展だ。

当方は新型コロナウイルスが拡大する前から、アマゾンやネットフリックス配信の米国のTV番組を見てきた。時代を先取りした近未来の世界をテーマにした番組やBFIサスペンス番組を好んで見ている。新型肺炎が拡大してきた今日、自宅でテレビのスイッチをいれ、興味あるテーマ番組を見る時間が増えてきた。国連の記者会見や会議に参加して、感染の危険にさらすことは出来れば避けたいからだ。

欧州の感染国となったイタリアでは8日、同国の人口の4分の1に相当する地域に住む住民の移動制限など厳格な新型肺炎対策に乗り出してきた。コンテ首相は前日、青年たちに「家に留まって両親や高齢の祖父母を世話してほしい」と呼び掛けている。青年たちが外で感染した場合、新型肺炎は軽症で済むケースが多いが、高齢者の家族に新型肺炎を感染させる危険が出てくるからだ。

同時に、イタリア国営放送は自宅隔離された国民が退屈しないために、番組改革に乗り出してきたという。具体的には、若者にはスポーツ番組を、高齢者には文化番組をも増やすというのだ。

新型コロナウイルスの感染でイベントや文化・スポーツ行事は延期ないしは中止、禁止されてきた。例えば、8日時点で1126人の感染者、死者19人が出たフランスでは、2月の段階で5000人以上人が集まるイベント開催禁止を1000人以上のイベント禁止に強化している。ドイツでも同じように1000人以上集まるイベントは開催禁止だ。

イベントのない生活は多くの国民の日常生活のリズムを崩してしまう。感染拡大が冬シーズンを超え、長期化すれば、夏季の休暇シーズンにも影響を及ぼす。欧米人は夏季休暇のために働いている、といわれるほど、夏季休暇を楽しみにしているから、新型コロナウイルスがその時までに終息しなければ、彼らの休暇計画は危機に陥る。

政治指導者は感染対策のためさまざまな特別措置法的な対応に乗り出し、国民の自由な移動、行動を制限せざるを得なくなってきた。国民は政府の対応に理解を深める一方、イベントに代わる時間の使い方を考えざるを得ない。

ネットフリックスやアマゾン配信の米テレビを見るのも一つの対策だが、それだけでは少々寂しい。これまで時間に追われて蔑ろにされてきた家族間の交流を深める一方、本棚に置いたまま読めずにいた本や哲学書、宗教書を手に取って読みだすのもいいだろう。

ちなみに、感染の拡大を恐れ、欧米のキリスト教会でも礼拝をオンラインで行うところが増えてきた。自宅で神の話を聞くのも悪くない。83歳の高齢者フランシスコ教皇も今年の復活祭(4月12日)をインターネットを通じて行えば、感染の恐れがないうえ、体力を温存できる。いずれにしても、新しく生まれた時間を有意義に利用したいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。