学校現場から見た「一斉休校」問題の核心 --- 和田 慎市

2020年03月13日 06:00

政府(首相)が全国一斉休校を要請し、「感染拡大を防げるかどうかの重要な期間」と位置付けた2週間が経過したわけだが、いまだに感染拡大は収まる兆しがない。

写真AC:編集部

これまでに各界の有識者から、一斉休校に伴う弊害や問題点は数多く指摘されているので、私は教員の立場から今後危惧される問題について指摘をしたい。

子供の居場所や過ごし方、保護者の休業補償、一斉休校による拡大防止効果の是非等については、多くの意見・批判がネット・紙面上に寄せられており、的を得た指摘も多い。しかし、一斉休校による最大の弊害をあげるとしたら、それは「子供たちの学習機会の喪失と学校カリキュラムの崩壊」だと思う。

このことに関し現役教師である江澤隆輔氏(福井県公立学校教諭)が、一斉休校により引き起こされる様々な問題を子供の視点から的確に指摘されているので、まずは記事を紹介しておきたい。

現役教師が「一斉休校の影響は来年度まで続く」と嘆くワケ(プレジデントオンライン)

同じ学校現場に携わる人間としてまさに同感である。あまりにも唐突に行われた政府の一斉休校要請による学校現場の混乱ぶりが手に取るようにわかる。

小学校に限らず中・高校でも学習機会の喪失は大きな問題であるが、義務教育ではない高校は年度末ともなると、成績不審者の単位修得や欠席過多な者の履修認定などの進級問題も絡んだりするから、突然の休校で対応が難しくなるケースもあるのではないだろうか。

学校によっては進度の遅れをカバーするため、インターネットで講義や課題を配信し始めたところもあるが、全国すべての学校で一律にネット配信ができるわけではない。また生身の教師がすぐそばにいる授業と違い、ネット配信は子供たちのやる気・集中力に頼らざるを得ず、本人が真面目に聞かなくても直接チェックすることができないため、学校や児童生徒間での学力差が拡大する恐れもある。

筆者のブログでも、新年度から学校はどうなる(どうする)のか、以前に危惧するコメントを発信している。

1か月後(4月初旬)の学校を想像してみる

このまま3月末まで感染拡大が収まる兆しが見えなかった場合、一体政府はどのような施策(要請)を行うつもりなのか? 「緊急事態宣言」までは踏み込まないならば、学校の一斉休校だけ延長するのだろうか?

仮に新年度の開始を1カ月遅らせたとしてみよう。その場合年度内に学習指導要領の進度目標を達成するには、通常の授業時間数ではまず無理であろう。内容を精選するにしても指導要領の修正を検討する時間はないだろうし、放課後や昼休みに補習を行うようになってしまうのか…。

また中学3年生、高校3年生にとっては入試への影響も大きく、教員も1カ月の遅れをどうしたらよいのか途方に暮れてしまう。結局教師の勤務時間を延長してでも補習時間を確保するしかなくなるのだろうか。ただ、どんなに工夫しても全国すべての中高校が授業の遅れを公平な形で取り戻すことができないなら、受験システムや入試日程の変更に踏み込む必要もでてくる。

さらに小中高を問わず全国どこの学校も、この時期にはすでに来年度の年間計画を立てているはずだが、1カ月も新年度開始時期がずれてしまえば根本から計画を練り直さなくてはならない。

各種行事(入学式、オリエンテーション、卒業式、遠足・修学旅行、運動会、文化・芸術発表会、PTA総会、講演・研修会、保護者面談、授業参観会、健康診断、球技大会等)や定期テスト・実力テスト、進学補講など、ちょっと思いつくだけでも年間スケジュールに組み込むべき行事・企画は多い。しかも、大学入試や就職試験のような学校外の動きに左右される行事もでてくる。

特に共働き(片親)の保護者の中には、学校の年間行事予定表を見てから休暇取得等の計画を立てる人もおり、学校の年間計画変更に振り回されることになる。

こうしてみると、学校の新年度開始を一カ月以上遅らせるというのは、学習機会やカリキュラムの面だけからみても現実的でないことがわかる。一斉休校を長期間延長すれば、子供達や教師が直接被害を受けるだけでなく、他の様々な分野にも影響が広がり、学校教育の根幹を揺るがす事態にも発展しかねないからである。

では一斉休校の長期間延長ができない時、果たして政府はどのような策を施すのだろうか? 学校教育への甚大な影響を恐れ、お茶を濁すように休校は4月5日頃から各自治体判断に任せることも考えられる。ただその場合は「3月一斉休校」との整合性が取れず、国民の不信感は増幅されるだろう。

逆に一歩踏み込んだ手を打つとなると、公平性を保つ意味でも社会全体の経済活動や国民生活全般を一定割合制限する緊急事態宣言レベルの施策を行うことになるのか。その場合国民は覚悟を決めやすいが、相当不自由な生活を強いられることになるだろう。

いずれにしても政府は極めて難しい判断を迫られることになる。現時点で政府は様々なシミュレーションをしているはずだが、すでに「全国一斉休校」という一手を打ったのだから、最悪の事態を想定した具体案を策定し、いざという時には国民に制約や負担を強いる厳しい施策を行う覚悟が必要となる。

政府がどのような対策を実行するにしても、国民の安全を守るために責任をもって真摯に取り組まない限り、国民のコンセンサスは得られないだろう。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言

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