日本だけ新型コロナの感染者が少ないのはなぜか

池田 信夫

新型コロナの感染者は世界に広がっているが、日本だけはその例外になっているようにみえる。次の図はジョンズ・ホプキンス大学のCSSEデータベースから人口1000万人あたりのCOVID-19の感染者(陽性と確認された症例)の数を国別に時系列でみたもの(対数グラフ)だが、多くの国で指数関数的に感染者が増えているのに対して日本の増加率は低く、感染率はアメリカとカナダに次いで少ない。

この解釈は二つある。一つは素直に、日本が感染の拡大を押さえ込むことに成功していると考えることだ。中国のように都市を封鎖したわけではないが、「自粛要請」の事実上の強制力は大きく、大規模な集会やイベントが次々と中止されている。

もう一つの解釈は、検査が制限されているために感染者が過少に出ていると考えることだ。これは一部の人のいうように厚労省が感染者を少なく見せるために操作しているのではなく、積極的疫学調査のためにサンプルを厳密に絞っているからだ。

これは感染者の健康状態を調べて感染の全体像をつかむ調査で、治療を目的としていない。コロナには治療薬がないからだ。検査機器も認定されたものに限定されたため、日本の人口100万人あたりの検査数は76人で、韓国の4000人やイタリアの1000人ばかりでなく、300~500人程度のヨーロッパ諸国より少ない。

検査を絞ったため、多くの潜在的な感染者を見逃している可能性がある。その実態を推定するヒントは死者である。次の表のように日本の死者は19人だが、コロナの致死率(死者数/感染者数)が0.5%程度だとすると、感染者は19÷0.005=3800人ぐらいいるはずだ。日本の感染者は691人と、3000人ぐらい少ない。

これも二つの解釈が可能である。一つは、日本の死者はすべて70歳以上で、もともと基礎疾患を抱えていた人が多いので、致死率が高いと考えること。この解釈だと、日本の致死率は19÷691=2.7%と、先進国ではイタリアに次いで悪い。

もう一つの解釈は、保健所で検査を拒否された軽症(あるいは無症状)のスプレッダーが大量にいると考えることだ。彼らが「ただの風邪だ」と思って大規模な集会で多くの人に濃厚接触すると、大きなクラスター(感染者集団)をつくる可能性がある。

先週から保健所を通さないで民間委託による簡易検査が可能になったので、感染者の数は増えるだろう。ただこれも病院の「帰国者・接触者外来」で認めないと検査できないので、そう大きく増えないかもしれない。

今までのところ検査対象を重症患者中心に限定する厚労省の方針は正しいと評価できるが、過剰なスクリーニングで大量のスプレッダーが生まれている可能性もある。この場合は簡易検査で感染者が激増し、日本も「世界標準」に近づくかもしれない。

ただ上の表でもわかるように重症患者は30人程度で、ほとんど増えていない。今でも重症患者はすべて検査しているので、この状況は検査を増やしてもそう変わらないだろう。これから簡易検査が増えると精度が低いので、擬陽性の患者で病院が混乱する弊害も大きい。