「見返り」の意味とは?山形・大石田町の副町長再逮捕について

2020年03月14日 06:00

3月11日のさくらんぼテレビ(山形)ニュースより(「前副町長が収賄容疑で再逮捕 公共工事の入札で便宜 100万円受領か 山形・大石田町」)。

山形県大石田町の公共工事の入札を巡り、また不正が発覚した。前の副町長が、町民交流センターの建築工事で業者から、便宜を図った見返りに現金100万円を受け取ったとして再逮捕された。

これだけ見ると、視聴者は、入札情報の漏洩とか入札結果の操作とか、よくある「便宜を図る」ケースなのかな、と思うだろう。この副町長は「2015年8月に行われた『虹のプラザ』の入札」で、業者に「非公開の入札情報を教え、その見返りとして2017年3月…現金100万円を受け取った」とのことである(同ニュース)。

事件の舞台となった大石田町民センター「虹のプラザ」(公式サイトより)

他の記事によれば、「町民交流センターの競争入札には8つのジョイントベンチャーが指名され、そのうち3つは辞退」し、贈賄側のジョイントベンチャーが落札した。落札率99.89%だった(NNNニュースより)。「8つのジョイントベンチャーが指名」とあるが、おそらく当初入札(直後に見るようにこれは再入札の案件である)の際に応札したジョイントベンチャーなのだろう。

気になるのは、冒頭のニュースが、この「入札は、この1ヵ月前に一度実施されていたが、全ての入札額が予定価格を上回ったため成立しなかった」こと、そして前副町長は「何とか落札させるために再度入札を呼び掛け」、業者側に「情報をもらしていたのではないか」という関係者の証言を紹介していることである(工期が後にずれ込むのを懸念したことは想像できる)。

そして、「その見返りとして、談合が発覚した消防庁舎の入札」で、贈賄側業者の「落札に便宜を図っていたと見られている」と報じている(冒頭のさくらんぼテレビニュース)。「消防庁舎の入札」とは前の逮捕容疑である、副町長の談合事件への関与行為(朝日新聞記事参照)が問題となった公共工事の入札(容疑は官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害)。

全業者が予定価格オーバーということは、予定価格が業者側にとって「見合わない」ことを意味している。談合によって敢えて不落札にしておいて再入札時の予定価格を「吊り上げる」こともあるが、一般には、このような現象は予定価格が低すぎる場合に発生する。

このような場合、発注機関が取る選択肢は二つある。一つが予定価格を見直すか工事内容を限定することで「業者にとって見合う」ものにすることであり、もう一つは業者を説得してなんとか不採算の工事をしてもらうかである。報道を見る限りでは、この副町長は後者の選択をしたのだろう。そのために非公開の予定価格を教示し、その枠内で応札価格を入れてもらうように頼んだのだろう。落札価格が予定価格よりも0.1%ほど低いのは「端数を切った」のだろうか。18億ぴったりにしなかったのは、そうだとすると綺麗にゼロが並び過ぎて「積算っぽくない」からだろうか。

だから、「見返り」が必要になる。誤解してはならないのは、公共工事の不正での「見返り」は通常、業者に便宜を図った発注機関職員になされるものである。ここでは見返りが副町長から業者に対してなされているのである。つまり、前の入札で協力してもらった見返りに後の入札で便宜を図るという、という構造になっている。

写真AC

このような「貸し借り」は公共工事ではよく聞く話である。予算が足りないとき低額で受注してもらう、追加の工事が必要になったとき無償で応じてくれる、そういった業者に対してかつては別の随意契約の発注で応えていたが、今は競争入札が徹底されるようになったのでそうはいかない。だから情報漏洩という「不正」につながるのである。

そう考えると、報道内容について三つの注文を付けたくなる。

第一に、落札率の99.89%というのは、(再入札において条件面での変更がないという前提で)「高いのではなく安い」ということである。不採算の工事を引き受けてもらったという理解ならば、である。視聴者は直感的に「落札率高い=不正」と理解してしまう。

 第二に、「便宜を図った見返りに現金100万円を受け取った」というのは、何についての「見返り」なのか、ということである。これは官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害の容疑の対象となった、消防庁舎の入札に係る(副町長から業者への)便宜に対する見返りなのではないか。「誰の誰に対する何」の関係をもっとクリアにしてもらいたい。

第三に、というのであれば、今回報道された内容に対する容疑は贈収賄ではなく(「虹のプラザ」の入札に係る)別の官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害なのではないだろうか(非公開情報の漏洩なのだから形式上はこれらの罪は成り立ち得る)。「100万円」の話は消防庁舎の入札に係る新事実だろう。もしこの100万円が「虹のプラザ」に係るものであるというのであれば、予定価格の変更、発注内容の見直し等の事情があったということになるが、そのような事実はあるのか。

限定された情報を前提にしているので、筆者の勝手な推測や思い込みがあるのかもしれない。追加の情報が待たれるところである。

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楠 茂樹
上智大学法学部国際関係法学科教授

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