バロンズ:景気後退入りに直面する米経済、不十分な財政出動

2020年03月16日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーは、米株相場が弱気相場入りし25%も急落するなかで、年に2回同誌が開催するラウンドテーブル出席者による推奨銘柄を取り上げる。誰もが愛する銘柄と言えば、ウォルト・ディズニーだが、その他に彼らが取得した銘柄は何か。詳細は、本誌をご覧下さい。参加者は、以下の通り。

恒例の参加者
①ゴールドマン・サックスのアビー・コーエン顧問兼シニア投資ストラテジスト
②ガムコ・インベストメンツのマリオ・ガベリ会長兼CEO
③デルファイ・マネジメントのスコット・ブラック社長
④イーグル・キャピタル・パートナーズのゼネラル・パートナーであるメリル・ウィットマー氏

近年加わった参加者
⑤パルナッソス・インベストメンツのトッド・アールステン最高投資責任者(CIO)
⑥アリエル・インベストメンツのルパル・バンサリCIO
⑦T・ロウ・プライスでCIOを務めた経歴を持ち、新たに小型株や未上場株に注力したファンドを立ち上げるヘンリー・エレンボーゲン氏
⑧エポック・インベストメント・パートナーズのウィリアム・プリーストCEO兼共同CI

2020年1月から参加
⑨フランクリン・テンプルトン・フィクストインカムのポートフォリオ・マネージャー兼CIOのソナル・デサイ氏
⑩ベイリー・ギフォードのパートナー兼ポートフォリオ・マネージャーのジェームズ・アンダーソン氏

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はトランプ政権の新型コロナウイルスの取り組みに焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

カバー写真:Joe Campbell/Flickr

トランプ政権の対応、株価を押し上げも、物足りなさ残る―Trump’s Response to Coronavirus Boosted the Stock Market. The U.S. Is Coming Up Short.

3月9日週は新たな歴史を刻んだが、市場としても国家として決して賞賛される内容ではなかった。3月12日、ダウは約10%安を迎え、1987年10月19日に直撃したブラックマンデー以来の下げ幅を記録。米株相場は、2009年3月に幕開けした強気相場に終止符を打った。

金融危機が世界を揺るがした2008~09年に各国が協調行動した当時と異なり、各国の対応は限定的で、主要国間の協力関係の断絶を映し出す。米国自体、在宅勤務や休校や娯楽活動の停止、さらには外食などの習慣の変化を余儀なくされ、急激な経済活動の落ち込みに直面するに違いない。

株式市場、信用市場、商品先物市場などマーケットが送るメッセージは、一時的にしろ経済に深刻な影響を与えるというものだ。迅速な政策対応が求められるが、金融危機の最中、政策が動いたのは市場が暴落した後だった。ランプ大統領は13日の金曜日に国家非常事態を宣言し、500億ドルの財政支出に道を開いた。この決断は、ダウが欧州の渡航禁止を決定を受け12日に暴落した直後になされた。

大半のエコノミストが注意深く経済見通しを下方修正するなかで、実質GDP成長率は予想以上に悪化しかねない。1987年にダウが1日に22%も暴落した当時、米国は景気後退入りしなかった。これは、Fedが緊急利下げに踏み切り、米株急落の衝撃を緩和させたことが一因である。

アライアンスバーンスタインの元主席エコノミスト、ジョセフ・カーソン氏は米国経済につき1987年のブラックマンデー当時ではなく、別の危機発生時のような展開を見込む。1~3月期の米実質GDP成長率については、金融危機や貯蓄貸付組合(S&L)の破綻を受け景気後退入りしていた1980年の4~6月期のようは激しい落ち込みを予想する。当時、実質GDP成長率は前期比年率8.0%減となり、リーマン・ショック直後の2008年10~12月期には同8.4%減と一段の落ち込みをみせた。

1980年4~6月期の経済の冷え込みは信用規制の断行であり、当時は世間がクレジットカードの使用を禁じられたと間違って捉えられた(実際には低信用の消費者を中心とした信用供与の縮小措置)。結果、個人消費は前期比年率8.7%減もの激しい落ち込みをみせたものだ。2008年10~12月期の個人消費は逆に、同3.7%減にとどまっていた。

米実質GDP成長率、2008~09年に景気を最も下押ししたのは企業支出。今回もグローバル・サプライチェーンの大混乱を受けてそこが大きな懸念材料。

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(作成:My Big Apple NY)

カーソン氏は、在宅勤務や休校、大人数でのイベント禁止、スポーツイベントの中止など、新型コロナウイルスによる生活の変化が1980年当時のようなクレジットカード使用急減のような効果をもたらすと見込む。さらに、2月19日の最高値から時価総額を7.8兆ドル吹き飛ばした米株安に加え、サプライチェーンの停滞も米国経済に影を投げかける。

少なくとも13日に約9%も上昇したため、12日の暴落は相殺された。一連の買い戻しは、トランプ大統領が新たな対応策として①連邦政府貸付の学生ローン利息免除、②戦略石油備蓄(SPR)の大量積み増し――を決定したためだ。結果、サウジアラビアとロシアの交渉決裂に伴う協調減産の終焉によって引き金が引かれた原油安に歯止めを掛けた。

ただし、トランプ大統領は下院民主党が提示した救済策について「十分ではない」と一蹴した。同案は14日、363対40の共和党議員を含む圧倒的多数で可決ペロシ下院議長は「家族第一(family first)」と説明する通り、米連邦政府が法制化していない有給病欠休暇の他、無料検査を盛り込む

断片的な対応策を講じる米国と異なり、英国は財政と金融当局が歩調を合わせ行動している。財務省は11日に300億ポンド(約4兆円)の経済対策を発表、そのうち120億ポンドを企業が負担する有休の病欠休暇を政府が補償する案など、企業や労働者の支援に充てる。翌12日には、イングランド銀行が50bpの緊急利下げに踏み切り、政策金利を0.25%に設定した。

ドイツでも財政均衡の放棄を辞さない構えを表明、13日にはショルツ財務とアルトアイヤー経済相が共同で記者会見を行い、新型コロナウイルスで打撃を受けた企業や労働者などを支援するため、無制限の信用供与を行うと確約した。ショルツ財務相は、この措置を「バズーカ」と表現したものだ。

米国には、欧州のような緊急事態の観念が不足している。エコノミストの経済見通し下方修正も、比較的小幅だ。過去の数字である経済指標は引き続き新型コロナウイルス大流行前にみられた米景気の力強さを示す。4~6月期の実質GDP成長率も1~2%減と比較的なだらなか落ち込みが予想され、夏頃には新型ウイルスが消滅していくとの見方から緩やかな回復が見込まれる。果たして、そうなるだろうか。

大型の包括的支援策が講じられないなか、Fedの政策決定が注目される。前週、Fedは米国債に傾く資金の流れを修正すべく、流動性供給措置の拡充を決定した。3月17~18日には、米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える。FF先物市場は100bpの利下げを織り込み、0~0.25%のゼロ金利への回帰を予想する状況だ。金融政策が限界に近づくなか、財政出動こそ望まれる。ゼロ金利は、新型コロナウイルスによるパンデミックの特効薬ではない。


米実質GDP成長率は、他国のように大幅な落ち込みは避けられないでしょう。JPモルガン・チェースも13日、上半期末までの米欧の景気後退入りを予想。米経済は1~3月期に前期比年率2%減、4~6月期に同3%減、ユーロ圏は1~3月期に1.8%減、4~6月期に3.3%減と見込みます。

確かに、米国が景気後退入りしてもおかしくありません。ただし、JPモルガン・チェースの予測値のように、1980年4~6月期や2008年10~12月期のような落ち込みは回避するのではないでしょうか。感染拡大は2月末から深刻さを増し、NY州の非常事態宣言→500人以上のイベント禁止など家計を直撃する措置は3月始めに決定されました。また、米3月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値も95.9と前月の101.1から低下し確報値で一段と急落する余地がありますが、5ヵ月ぶりの水準にとどまります。

何より、貯蓄率の高さが異なります。2007年11月には3.1%まで低下していましたが、力強い労働市場の拡大を背景に2月は7.9%と良好な水準を保ちます。

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(作成:My Big Apple NY)

また、家計債務を可処分所得比でみても健全そのもの。楽観は禁物ですが、米国の家計が1980年4~6月期、2008年10~12月期のような急激な落ち込みを回避する素地があることは確かです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年3月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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