まちじゅう自動運転の社会的効用

2020年03月16日 11:30

哲人経済学者・宇沢弘文さんと言っても、今や知らない人がいるかもしれない。

1928年鳥取県米子市生まれ。戦後、スタンフォード大学やシカゴ大学などで十数年教えた後、東京大学へ。高度経済成長や市場至上主義の矛盾に、真正面から警鐘を鳴らした。

自動車の死傷事故、自然環境・都市環境の破壊、騒音・振動という公害現象などの外部不経済を算出した『自動車の社会的費用』(1974年、岩波新書)は、ロングベストセラーとなった。半世紀近く経った今でも、その本質は全く色褪せない。

遠隔自動走行は、この「自動車の社会的費用」を根本から覆す可能性がある。

仮に、人口50万人都市で、まちじゅうで自動運転とカーシェアリングが導入されたとしよう。

三大都市圏を除く人口1人当りの自家用車の所有率は約0.6。人口50万人の都市には、約30万台の自家用車がある。しかし、平均稼働率は約1.9~2.6%、1日あたり28分~37分(出典:NRI生活者1万人インターネット調査(2017年8月))と言われている。

まちじゅうで遠隔自動走行とカーシェアリングを導入すれば、朝・夕のラッシュ時やメンテナンスなどを考慮しても、30万×(0.02+α)で、1万台も車両があれば十分だろう。(ただし、AIやビッグデータなどを活用した最適な配車・相乗りなどにより、更に減らせる可能性も大いにある。)

現在、ハンドルやブレーキがない自動運転車両は、ほとんど販売されておらず、費用も高額で、また、手続きも煩雑であるが、量産化すれば費用は大幅に下がり、手続きも簡略化されるだろう。仮に1台500万円としても、500億円で都市全体に自動運転車両を配備することができる。

現在の遠隔自動走行は、原則として、1人が1台の自動車を遠隔で監視することを想定しているが、(ただし、1人が2台を監視する実証実験も始まっている。)

◯最初は、時速20キロメートル程度の低速運転から始める。
(都市部ならば時速20キロメートルでもある程度のニーズに応えるだろう。更に、自動運転車両がまちじゅうで実装され、データが蓄積されることなどにより、安全性を確保した上で、速度を上げることもできるだろう。)
◯5Gなどの大容量、高速、低遅延技術が導入される。
◯キャノンなどの大量画像処理技術が実装される。
(ラグビーのワールドカップの警備などでは、既に導入されている。)
◯実証実験が繰り返される。

ことなどにより、電車の運行管理システムのように、数百人で都市全体の自動運転車両を遠隔で監視することもできるようになるのではないか。

監視費用・エネルギー代の他、配車アプリやコールセンターの費用、車検代、保険料などを考慮しても、おそらく年間100憶円もあれば1万台の自動運転車両を維持管理できるのではないだろうか。

自動運転車両を配車アプリなどでいつでも利用できるサービスを、住民向けに月額5,000円(年間6万円)、観光客等向けに1日1,000円で提供したとしよう。

これは、今の車の購入費用や維持管理費用(税、保険料、車検代、駐車場代、ガソリン代など)よりも著しく安価で、更に、移動時間も自由に使うことができるので、住民の7割(=35万人)が月額で利用し、加えて、年間50万人の観光客が1日利用をしたとすれば、年間210憶円+50億円=260憶円の収益が見込まれる

車両の購入費を減価償却しても採算を取ることは可能ではないだろうか。(もちろん、バス会社やタクシー事業者など既存の交通事業者への経済補償も必要だが、一時的な費用だ。)

更に、不要となったまちなかの駐車場を有効活用して、魅力的な都市をつくることができるだけでなく、導入される車両の総数が少ないからこそ、電気やユーグレナなどで運転すれば環境にもすごく優しい

また、都市経営の観点からも、まちじゅう自動運転事業は興味深い。

フランスやドイツなどの多くの都市は、自治体やまちづくり会社が、地域のエネルギー供給事業などを独占的に行う一方、住民の代表がその経営をきめ細やかに監督し、収益を様々なまちづくりに還元してきた。(戦前の日本でも、地方のコメ作りを前提とした税制の中で、慢性的に税収不足に苦しむ都市では、税外収入を確保する手段として、電気事業などを積極的に行ってきたが、主力の電気事業は、第二次世界大戦中に北海道や東北などのブロックごとに集約されることとなった。)

まちじゅう自動運転事業も、これからの都市の重要な収益源となり、教育や福祉などの財源となりうる。

それだけではない。世界で初めて、まちじゅうで自動運転を行えば、自動運転車両の一大開発拠点となるだけでなく、自動運転車両を運行管理するシステム自体も成長・輸出産業となるだろう。

あとは、どの都市が最初に始めるかだ。


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2020年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。

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