欧州は“戦時体制”に:人との間は「2m」の距離を取って!

欧州連合(EU)の欧州員会は16日、EU域内の新型コロナウイルス感染防止のため、EU域外から域内への不要不急な入域を30日間禁止する案を提示した。中国に代わって新型肺炎の最大の感染地帯となった欧州としては最後のカードを切ったことになる。EU域内でも加盟国間の国境は次々と封鎖、入国制限が実施されてきた。

国民に向けて演説するフランスのマクロン大統領(2020年3月16日、フランス大統領府公式サイトから)

マクロン仏大統領は16日夜の国民向け演説の中で、「われわれは戦争状況下にいる」と述べ、国民に外出制限などの緊急対策への理解を求めているほどだ。欧州の現状は不可視の直径100ナノメートル(nm)の新型コロナウイルス(covid-19)の侵略に対し、懸命に応戦しているという意味で、「欧州は戦時体制に入った」といえるだろう。

果たして、この戦いで勝利を勝ち得るだろうか。新型コロナウイルスへの治療薬、ワクチンの開発に世界は乗り出してきているが、新薬を感染患者に実際投与できるまでにはまだまだ忍耐が必要だろう。

オーストリア国営放送は連日、新型コロナウイルス関連の特別番組を放映し、国民に緊急時の対応を呼び掛けている。当方も同番組を見ることが最近の仕事となってきた。

そこで気が付いた点は、新型肺炎が広がってきたばかりの1月末から先月末まで、ウイルス専門家は、「最大の感染防止は誰でもできること、手をよく洗うことだ」と言ってきた。具体的には、「20秒間の手洗い」だ。それが最近は「30秒間洗うように」となってきた。

いずれにしても、石鹸で手を洗うことがスペイン風邪の時も感染防止に大きな効力を発揮したことを知っている欧州では「手を洗うように」と、何度も繰返し強調しているわけだ。

ところが、最近は、「手を洗う」の他に「人との間の距離(独語 Abstand )を取るように」と注意してきている。感染には、①接触感染、②飛翔感染、③無接触感染の3通りが考えられているが、「ソーシャルコンタクトを減らす」と共に「人との間の距離は2mを取るように」と喚起されてきたのだ。

特別番組で司会者がゲストにインタビューする場面で、両者間の距離が数日前より拡がっていることに気が付いた。先日の番組中にゲストが咳をしたが、その瞬間、司会者は一瞬顔色を変えた。一種の「マイクロ表現」だ。司会者とゲストの距離が1m弱だったのだ。

その後、特別番組では司会者とウイルス専門医やコメンテーターなどのゲスト間の席を広く開けるようになったのだろう。1階の住民が2階に住む住民に話しかけているようなもどかしさを感じるが、仕方がない。対人で2mの距離は新型コロナウイルスの感染防止では不可欠な対応だからだ。

欧州人はスキンシップを大切にする。相手に会えば握手する。新型肺炎が拡大した今日、スキンシップは中止され、握手も止め、その代わりに日本的なお辞儀をするシーンが増え、欧州でモードとなってきた。

欧州各国で外出禁止が施行され、学校も休校となっている。家の中で夫婦が一緒に過ごす時間が増え、子供たちも家で勉強し、テレビを見たりする時間が増える。その結果、「家族間の交流が深まるという面もあるが、そうではない状況も考えなければならない」という声が社会学者達から聞かれる。

朝、親は会社に行く、子供は学校にいく。昼は外食し、子供たちはパンやおやつを持参する。しかし、新型コロナはこんな一般家庭の日常生活を変えてしまった。夫婦は24時間家にいる。子供も家にいる、十分な広さのある家ならば、各自が自分の部屋で時間を過ごすことが出来るが、そうではない場合、家人同士、または同居者同士でぶつかるケースが増える、と予想されるわけだ。外出禁止期間が長く続いた場合、家庭内騒動が頻繁に起きる事態が考えられるというわけだ。

スポーツなどのイベントは中止され、外出は禁止され、対人関係では2mの距離を取り、家では家人と24時間を過ごす。欧州国民はこれまで体験しなかった状況下に置かれてきた。

21世紀のこの“戦時”体験は欧州人の「その後の生き方」に深い影響を残すか、新しい連帯感、人生観が生まれる機会となるか。その答えは新型肺炎が克服された後、次第に明らかになってくるだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。