自動車会社の生き残り戦争

北米に住んでいると公共の交通機関に絶対に乗らない、という人は案外多いものです。日本ではわからない感覚だろうと思いますが、正直、私も乗りたくないと思うシーンにはちょくちょく出くわします。バスは基本、前乗りなのですが、後ろのドアが下りる人のために開けばそこから普通に乗ってきます。そういう輩はまず料金は払いません。いや、前から乗っても面倒くさそうな人には運転手が「いいから乗って」と料金も取らずに乗せることはしばしばです。

Werner Bayer/flickr:編集部

電車には声を上げている怪しげな人や振る舞いの予想がつかない人、異臭を放っている人などいろいろいます。そういう世界はごめんだ、という人は実は思った以上に多く、自家用車かタクシー、ライドシェアということになるのでしょう。

最近の自動車開発の傾向の一つにテスラを意識した高級EVであります。各社車体はより一層大きくなり、インパネは近未来型でトレンドとしては非常にすっきりしたデザインのものも増えています。どうやるのかと思えば音声で指示を出す、ということのようですが、パーソナルリビングルーム的要素が強く出ているように感じます。公共交通機関に乗れない(乗らない)方々の価値観とこだわりはそういうステータスになってみないと分からない」ものであります。

20年も前に私どもが一軒1億円の集合住宅を開発販売していた際、当時の社長が「俺はそんなところに住んだことがないから俺にはこの住宅の設計ができない」と嘆いていたのを覚えていますが、高級とは表面繕いの革張りシートとか、見た目だけではなくブランドイメージから湧き出てくる重みが重要になってきます。その点で日本勢はレクサスは頑張っていますが、他はイメージとの一致ができないのです。

例えばホンダはアキュラ、日産はインフィニティという高級車ラインを持っていますが、ホンダはちっちゃな車、日産はあの値引きばかりする会社というイメージが重くのしかかるのです。イメージを変えるには別会社にして完全に切り離した体制を敷かねば作れないのですが、それができたのはトヨタだけだったということかもしれません。

では、一部の高級路線を突っ走るグループを別にすると自動車はどうなるのでしょうか?私はコモディティ化するのだろうと思います。かつてカメラと携帯電話は別々に持っていました。今は趣味の一眼レフを別にすればスマホのカメラを使いますし、スマホのカメラ自体がどんどん進化してきています。

自動車各社はMAAS(Mobility as a Service)と称して移動という全体像を捉えることを研究しています。しかし、これは自家用車という個人所有の世界を否定し、すべてを公共という発想に仕切りなおしているともいえ、自動車各社が自社で培った独自の技術、競争力、販売力などをガラガラポンしようとしているのかもしれません。

例えばトヨタが静岡県裾野市で2021年から未来の実験都市開発を行いますが、これは自動車と街と人々のライフを全部一つにパッケージしたものであり、現代のスマホと同じ発想にある考えてよいと思います。皆が同じシステムの下、同じサービスを使うことでMAASは成り立ちます。

ただ、すべての人がそれで満足するのでしょうか?多分、冒頭のように俺はシェアは嫌だ、という人は必ず出てきます。そのためのカスタムメード的な自動車の需要はあるのでしょう。今でいう自家用機の需要と同じです。実は案外、この自家用機、北米ではかなり普及していて私の周りにも数名、普通に飛び回っている方はいらっしゃいます。

私は日本も含め、自動車会社は20年後に急減すると考えています。スマホメーカーが数社に絞り込まれているように自動車もそうならざるを得ないのであります。もう一つ、びっくりすることはソニーが作り上げた電気自動車の開発期間の短さであります。企画からコンセプトカーの製作までわずか2年であります。自動車会社ですら4-5年かかるのにその半分以下で作り、実用化を1年後に見込んでいるというのです。明らかに自動車産業は激変の時代を迎えており、ライバルは同業他社ではなく、未知の会社であるのです。

ではどう生き残るのか、私はブランド力の強化とそれに見合うクルマ作りではないかと考えています。ルィヴィトンのバッグが廃れないのと同じで皆が「いいね」いうような素晴らしいものを作り上げるしかないと考えています。今の日本の自動車会社はギミッキー(手品のような)気がします。クルマで寝泊まりが流行るといえばそのような仕様を急に売り出すといった日本しかない目先ビジネスは私にはまやかしのようにしか感じないのです。

どこに向かって何を作るべきか、真剣に考えないと日本が誇る自動車産業は生き残れなくなってしまいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年3月18日の記事より転載させていただきました。