コロナ禍の欧州:花を買った婦人と白熊の赤ちゃん

2020年03月19日 11:30

英紙ガ―ディアン電子版16日付に1枚の写真が掲載されていた。撮影場所はイタリアのミラノ市内だ。同市はイタリア北部ロンバルディアの中心都市であり、新型コロナウイルスが猛威を振っている所である。その市内で60歳ぐらいの婦人が買物を終えて、家に向かっているところを撮った写真だ。当方が驚いたのは婦人が手にしていた買い物袋の中に一束の花が顔を覗かせていたことだ。

ウィーンのシェーンブルン動物園の白熊の赤ちゃん(シェーンブルン動物園公式サイトから)

新型コロナウイルスは今、イタリア北部を襲撃し、南部にまで広がってきた。北部ロンバルディアでは急増する感染者を収容できず、医療システムは崩壊状況だ。重症患者用の酸素供給器が不足し、集中治療室ベットがなくなった病院が出てきた、そのため、重症患者を南部地域の病院に転送するケースが増えてきた。

イタリアでも最大の感染地ベルガモ市では毎日、多くの市民が死亡している。同市のローカル新聞の訃報欄は10頁を超えるという。多い死者を埋葬できないため、遺体を一緒に火葬しているというのだ。

学校は休みになり、外出制限を実施する国が増えている。食料品の不足を恐れる国民がスーパーで麺類、ライスばかりか、トイレットペーパーなどを買い漁るシーンも出てきた。そんな日、写真を見る限りでは、1人の婦人が買い物袋を持って歩いている。その買物袋の中にはパンやミルクだけではなく、花もあった。

ミラノの婦人はスーパーで一束の花を買って帰るところだったのだろう。亡くなった人への供え物の花だったかもしれないが、当方は婦人が自分の部屋に春の香りを放つ花を欲しかったからではないか、と勝手に想像している。

当方は東西欧州が分断されていた冷戦時代、ハンガリーに初めて取材に入った。ブタペストで小さな花屋さんを見つけた時、驚くと共に感動を覚えたことがある。東欧共産政権下では言論や信仰の自由は抑圧され、多くの国民は厳しい日々を送っていた。そのような苦境下でも人は花を買うものだ、ということを知ったからだ。

人は生活に余裕が出てきた時、花を買い、それを愛でるものだ、と考えてきた当方は驚いた。なけなしの金で人はパンではなく、花を買うことがある、明日が分からないのに花を買う人がいる……、これは当時の当方にとっては大きな発見だった。

ミラノ市の婦人が花を買って帰るところを撮影したカメラマンは買い物袋に花を見つけたので素早くカメラのシャッターを押したのだろうか。彼も当方と同じような感動を覚えたのか。それとも単なる偶然に過ぎなかったのか。

オーストリアでは16日から外出は制限され、レストランや喫茶店は閉鎖され、食料品や日常品を売るスーパーと薬局、ドラッグストアだけが営業している。クルツ首相はこの緊急期間の国民の日常生活を保障すると約束したが、人々はやはり不安を払しょくできない。スーパーは混乱する、同時に、現金を口座から下ろす人々が増え、オーストリア日刊紙エステライヒによると、「通常の7倍の現金が先週末引き下ろされた」と報じていた。銀行の崩壊を予想する人々もいるわけだ。

ウィーンには世界的に有名なシェーンブルン動物園がある、そこで白熊の赤ちゃんが生まれたと報じられると、白熊の赤ちゃんは一躍人気者となり外に出されるや否や、人々は白熊を見に殺到した。しかし、新型コロナウイルスが広がったため博物館や美術館と同様、動物園も閉鎖になった。

多くの市民から白熊の赤ちゃんの様子を聞く問い合わせがあったため、動物園が「白熊の赤ちゃんの日々を撮ったビデオをオンラインで流す」と発表すると、人々は大喜びしたというのだ。ちなみに、動物のエサを売る動物屋さんは、スーパーや薬局と同様、この期間オープンされている。

マクロン仏大統領は16日の国民向け演説で、「我々は戦争状況下にある」と述べていたが、その“戦時下”でも花を買う人々、動物園の白熊の赤ちゃんのことを忘れない人々、がいるわけだ。

欧州の最大の感染国イタリアでは、感染リスク年齢の祖父母に会えない子供たちが、「全て良くなるよ」という呼びかけた標語が人々の心を動かし、中止になったコンサートの代わりに「バルコニーのコンサート」を演じている人々が話題になっている。

音楽、花、動物たちは、人を慰め、喜びを与えてくれるものだ。苦境の時、そのことに感謝したい。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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