雇用はどこへ?レイオフ(一時解雇)は有効か?

岡本 裕明

新型肺炎に伴い、世界中で企業活動の継続性について非常に頭の痛い事態になってきています。日本では想像できないような厳しい企業活動の制約を各国、あるいは州などの自治体が次々と決定し、事業継続できなかったり店舗が開けない状態となっています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

ここバンクーバー市では21日深夜0時からすべての飲食店が持ち帰り以外の運営を禁じられました。すでに大手レストランではその数日前から次々と店を閉め始めていましたが、市が強制終了してしまいました。また、22日にはBC州政府がスパや美容室の運営も禁じました。当地に限らず多くの北米の街ではNon Essential (=本質的ではない=今すぐに必要ではない生活必需品関連以外のビジネス)は閉鎖するようにという指示が出ているところも多く、北米の各地は死んだような状況になっています。

その間、我々日系ビジネスの団体ではこの難局をどう乗り越えていくのか、真剣にやり取りしています。この場合、切り口は経営側の生き残り策と従業員の扱いであります。

北米にはレイオフ(一時解雇)という便利な仕組みがあります。事業環境が大きく変化した場合に雇用主は従業員を一時解雇することができるという仕組みです。ほとんどの北米の企業はこの制度を使い、従業員を一時解雇しています。政府はかかる事態に対し、通常申請後1週間待たないと失業保険がもらえないのを即座に支払うなど対策を打ち出しています。また、たまたま確定申告の時期ですが、個人納税期限を先送りする策も打ち出しています。ただ、カナダに限ってみる場合、支援策とは支払い期限の先延ばしが主体であり、政府が何かお金を出して救済するというパッケージはほとんどありません。

では経営者対策はどうなのか、といえば政府からはほとんど救済策がありません。小規模事業者に「死ね」と言っているようなものです。そして、日本人経営者の間ではレイオフが馴染まないため、抱えている従業員をどうするのか、が議論の対象になっています。

何故馴染まないか、といえば「クビを切られた」という精神的インパクトは大きく、一時解雇であるにもかかわらず会社と従業員の信頼関係が崩れるという日本的認識が海外でも健在であるからです。(北米の労使関係は極めてドライですが、日本のそれは世界有数のウェットさがあります。)よって一部の日本人従業員はレイオフされたら同じ会社には戻らないと明言する人も目立つのです。

しかし、会社は売り上げもない中、給与を払い続けるほど体力があるわけではありません。数は少ないですが、レイオフせず、従業員に給与を払い続けるところもあります。無給休暇をお願いするという場合もあります。ワークシェアリングをするケースもあります。つまり、何らかの形で会社と従業員を繋ぎとめる策を講じたいというのが本音であります。

今回の一連の流れは歴史的な事態になることは確実で私は数か月後に企業活動がどうなるのか、その予見すら考えるのが恐ろしくなりつつあります。例えば資本がある大きな会社は自社の生き残りはできますが、協力会社が倒れてしまった場合、企業インフラが崩壊することになってしまいます。自動車会社が部品一つ欠けてもクルマが作れないように今回はジグソーパズルのピースがあちらこちらで欠ける状態になるとみています。

レイオフという仕組みは企業に大胆な経費削減策を提供し、生き残り、再び雇用を生み出すための有効な手段ではありますが、個別企業が経営不振になる時と違い、今回のようにほぼすべての業種が一斉に影響を受けるような事態になると小規模事業主は事業継続をあきらめざるを得ないケースが続出すると思います。倒産ではなく、自主廃業であります。特に資本的な強みのない海外で起業した日本人経営の会社は猛烈な嵐が吹き荒れるとみています。

私はそこまで予見したうえで日系のビジネスを立て直す方法を模索しています。何ができるのか、どうやったら日系の灯を持続できるのか、答えは簡単ではありません。すでに一部経営者は事業形態を変える判断を下したところもあります。紙媒体発行を止めて電子化するといった情報メディア会社のケースもあります。しかし、どうやって課金するのか、という問題も当然あるでしょう。

我々海外の日系ビジネス社会は来年のことすら予期できないところまで追い込まれています。突風が吹き荒れる中、倒れず、飛ばされずに経営してもらう知恵が求められます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年3月23日の記事より転載させていただきました。