市議会議員からみた「3つの相手先」:前編

市議会議員になって、ほぼ一年が経過しました。

この一年で、主にインターネットや議会報告会を通じて、市政や議会について報告をしてまいりました。本論考では、私が議会初年度の活動を通じて感じた、市議会議員という立場からみた「相手先」の特殊性についてお話しします。

市議会議員はふだん誰を相手に仕事をしているのか(議場は匝瑳市議会、匝瑳市サイトより:編集部)

市議会議員からみた「3つの相手先」

ビジネスパーソンとして働いていると、「相手先」といえば「お客様」です。「提携会社」は、ビジネスを前に進める「パートナー」であって、原則は同じ方向を向いて仕事をすることが求められるため、外側の機関でありつつ「同僚」に近い存在です。その意味で、「相手先」という言葉はなじまない気がします。

他方、市議会議員は、「市民」と「行政」と「他の議員」という、3つの相手先を持つ仕事のように感じられます。

市民と議員について

「市民」に対する市議会議員の仕事は、「行政をよりよくすることで、住みよい佐倉市を実現する」という大枠があります。そのために行う実務は、「声を聞き、政策を実現し、結果を報告する」こと、となります。その意味で、市議会議員にとっての「市民」は、ビジネスパーソンにとっての「お客様」に一番近い存在といえます。

しかし、ここで課題となるのが、「市民」と「議会」との関係性の薄さです。

この文章を読んでくださっている方は、議員が書いた長い文章を確認されているという意味で、間違いなく議会に対して関心のある方ですので、この指摘はあたらないかもしれません。

他方、私の地元である佐倉市のように、選挙の投票率が50%を下回り、市民からの議会への関心も低い状況が続けば、一般論として、「情報発信しなくても、選挙でがんばれば何とかなるな」という気持ちになります。50%以上の市民が議会に関心がないのであれば、自分の支援者と仲良くしてさえいれば、選挙で勝負できる票数が確保できるからです。

情報発信は一歩間違えれば全てを失いかねない危険な行為である上、発信しなければならない情報とは「議員間で意見が割れ、議論になっている」ポイントであるため、危険度はより増します。その意味で、議員は申し合わせこそありませんが、共同正犯的に情報発信をしなくなる。

結果、議員が市民に対して発信する情報は、「そりゃ当たり前だよね」的な一般論、あまりに要約されすぎていて何を言っているのかわからないコメント、今日のランチ情報、などになる場合が多い。もちろん、しっかり情報発信をしている議員もおられますが、自戒の意味も含め、議員である以上「そちら側の陥穽」に落ち込まないよう気を付ける必要があります。

行政と議員について

首長を頂点とする「行政」は、議員にとっては「チェックする先」です。この関係性における議員は、会社に対する「外部の監査法人」や「コンサルタント」に近い存在と言えそうです。しかし、実際の業務を通じて感じるのは、そういったストレートにしてビジネスライクな関係性ともいえない、良くも悪くもウェットな部分がある、という点です。

そう感じる原因の一つに、議員の仕事が単に「監視・監査をすればよい」というものでも、「業務提案をすればよい」というものでもないことが上げられるでしょう。

議員は、原則的には市民の負託を背景に、自分の思い描く佐倉市の将来像に向かって、行政に指摘や提案をし、議案に対する賛否を表明します。その将来像を実現させるためには、行政の協力が必要不可欠です。そのような意味で、日々行政の担当者とやりとりをし、関係性を構築していきます。何かが達成できたらお互い喜びあうこともあります。

さらに、カウンターパートとなる相手は行政に長く携わっており、知識も豊富なプロたちです。そのため、彼らに対して何等か指摘するような場合、そのポイントについては必死に勉強し理論武装しますが、それでも彼らに教わることは多くあります。

そのようなやりとりを重ね、関係性が出来上がってしまうと、例えば「これは指摘しなければ」というような何かが発生したとき、「あの人には言いづらい」という迷いが、議員にも生じることがあります。

しかしそのような振る舞いを一旦自分に許してしまうと、議員としての本来の仕事をしなくなります。その結果、気持ちの優しい議員は行政と「仲良く、つつがなく」という方向に動き、そうでない議員は、ひたすら自分の議会内での権力を強固にするような「政治」に終始する。この二つは、一見まったく違うもののように見えますが、原因は「議員本来の仕事をおろそかにした結果、市民に対する報告義務を怠らざるをえなくなること」から生じる態度です。

後編では、議員の3つ目の相手先である、「同僚議員」について概観し、それらの関係性を前提として議員はどうあるべきか、という見解を述べます。