サウジ王族の大量逮捕:王位継承急ぐムハンマド皇太子

2020年03月25日 06:00

サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子(MBS)は早く国王になりたくて仕方がないようだ。

サウジアラビアのムハンマド皇太子(Katalay Net/flickr:編集部)

彼が王位に就くことに反対しているサウジ王族の逮捕を3月に入ってまたやらかしてしまった。今年11月にサウジアラビアで開催が予定されているG20の開催前までに国王になる狙いがあるという。議長国の国王として出席する野望を果たしたいという意向のようだ。
(参照:hispantv.commiddleeasteye.net

今回逮捕されたのはサルマン国王の一番下の弟アフメド・ビン・アブドルアジズ(Ahmad bin Abudulaziz)、その息子でサウジ軍の士官ナエフ・ビン・アフメド(Nayef bin Ahmad)、サルマン国王の甥で前王位継承者ムハンマド・ビン・ナエフ(Muhammed bin Nayef)、そして4人目はムハンマドの異母弟ナワフ・ビン・ナエフ(Nawaf bin Nayef)の4人だ。逮捕に至った罪状は背任罪とクーデターを計画していたということらしい。更に20人ばかりの王族も逮捕されたという。(参照:hispantv.commiddleeasteye.net

サウド家には7000人以上の王子がいるとされている中でサルマン国王がこれまでの慣例を破ってMBSを国防大臣に任命したあと王位継承者にした。彼の甥のナエフに代わって彼を王位継承者にしたということからMBSには敵が多い。しかも、彼は傲慢な性格だということもそれを助長している。「一人のバカが国政を担うことに反対する」と王子の間からツイートされたこともあった。

2018年11月に400人近い王子を汚職の摘発だと称してリヤドのリッツ・カールトン・ホテルに拘束して彼らの資産を没収しようとした行為でさらに敵をつくることになった。

しかも政府は財政難にある。これまで王子に支給していた報酬の削減を余儀なくさせられた。物資的に豊かで特権に甘んじて来た王子達にとってそれを素直に受け入れるのは容易ではない。その一方で、国王やMBSらは相変わらず贅沢三昧している。これも王子の間でMBSへの不満が倍増する材料にもなっている。

敵が多くいることを承知しているMBSは父親のサルマン国王がまだ存命中に王位の座を譲渡してもらうという形で国王になりたいと望んでいるのである。サルマン国王が亡くなってからの王位継承は容易ではないとMBSは承知しているからだ。その為に、MBSはサルマン国王が生前退位することを望んでいる。

その為には彼が国王になることに反対している有力な王族を先ず排斥しておく必要があると感じているのである。

というのも国王になるには忠誠委員会での承認が必要だ。今回逮捕したサルマン国王の一番下の弟はこの委員会のメンバーでもある。ということから彼を逮捕してこの委員会のメンバーの資格をはく奪するというプランを遂行したのであった。

アフメド・ビン・アブドルアジズがロンドンに在住していた時もカショーギが殺害されたことから現在のサルマン国王の政治体制を批判していた。サウド家の治政に反対してロンドンの彼の住居の前で抗議をしていた活動家に対しても「サウド家の一部の指導者に責任があって、サウド家の全員に罪があるのではない」と反論したこともあった。
(参照:elmundo.es

アフメド・ビン・アブドルアジズは長い間サウド家の間で王位に就くべく嘱望されていた人物であった。彼はサルマン国王の弟ということで、これまで王位に就いて来た歴代国王の慣例に倣うことにもなって彼が国王になることに異論が生まれることはないはずであった。また、それがMBSが王位に就く可能性を回避できる唯一の手段でもあった。ところが、本人がその意向を表明したことは一度もなかったという。
(参照:hispantv.comarabia.watch

彼は忠誠委員会のメンバーであるということもあって、サルマン国王からMBSが国王になることに同意するように説得を試みたが、彼はそれを拒否したことが明らかにされた。それにMBSは強い憤りを感じていたという。

前王位継承者ムハンマド・ビン・ナエフは内務相を務めた経験もあり、その折には米国政府と協力してテロの撲滅に貢献した。その事もあって、米国政府は彼が国王になることを望んでいた。しかし、MBSが彼を飛び越えて王継承者になってから反逆罪という濡れ衣を着せられて自宅軟禁を命ぜられていた。

そのような事情からこの二人の影響力はMBS の前に可なり後退していた。逮捕されたこの二人は無期懲役か死刑の判決が下されると予測されている。

MBSにはサウド王族の間で敵が多くいる。その中で国王になったとしても彼の治政は容易ではない。財政難はより深刻になっている。しかも、今後の世界の石油への依存は次第に薄れて行く。それを回避すべく彼はサウジの産業化を図るべく2018年に「ビジョン2030」を発表したが、これまでその伸展は何も見えない。2030年まであと10年しかない。一つの部族が国らしきものを形作ったサウジが産業化できるとは思われない。どこでも見られるような国家組織の形態を持っていないサウジでビジョン2030は所詮絵に描いた餅でしかない。

MBSが仮に国王になれば、そこからサウジの衰退の始まりとなるであろう。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!
白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑