東京駅五輪カウントダウン時計の前で考えたこと

2020年03月27日 06:00

東京オリンピック・パラリンピックの延期が決まった。今年は五輪開幕をはさむ2週間ほど、中国の大学生12人を引率し第4回目となる日本取材ツアーを計画しているだけに、学生たちも動揺を隠せないようだった。そこで、発表のあった3月24日、グループチャットで、取材計画には変更がないこと、今やるべき準備を滞りなく、怠りなく行うことを強調した。

今週末にはオンライン会議を開き、今後の仕事の進め方を話し合う予定だ。学生たちにとってはみな初の日本訪問、大半は初の出国経験となるので、有意義な体験ができるよう力を尽くしたい。

今回は私のほか撮影担当の指導教授も一人増え、規模も内容も充実した体制となっている。毎年、中国国内の有力メディアが学生の報道作品を積極的に取り上げてくれている。計3回の豊富な実績を重ねたことで、学内ではシリーズのプロジェクトとして認知され、チーム名「新緑」も知られるようになった。

本来が中国人大学生の取材チームなので、競技自体を取材できる機会も能力もなく、五輪大会を通して日本の社会、経済、文化を探るというスタンスだった。具体的には、スポーツやアニメによる日本の地方創生、伝統文化の継承と発展、震災復興、さらには少子高齢化、水素エネルギー社会、アクセシビリティなどの幅広いテーマで、広告専攻の学生が初参加するのに合わせ、都市マーケティング研究も重要な関心事となっている。

この冬休みの間、私が各方面に連絡をし、直接足を運び、すでに20を超える取材アポが取れた。いつものことながら、日本側の手厚い対応に対しては有難い思いである。

五輪競技自体が取材対象でないとはいえ、延期は取材段取りの上で大きな影響を受ける。来年への延期決定が発表された翌25日、東京駅前の丸の内広場に行き、五輪開幕までのカウントダウンクロックを見た。大会公式時計の「オメガ」はちょうど開幕1年前の昨年7月24日に設置したもので、高さ約4メートル、幅約3.2メートル。これまで両面でそれぞれオリンピック、パラリンピックまでの時間を告げていたが、この日は普通の時計になっていた。


以前にも見たことがあるので、もう一度、時計の前に立ち、どのような感慨が湧いてくるのかに興味があった。


デジタル画面が一秒一秒変わっていく。時間は止まらない。見ている間も流れ過ぎていく。過ぎていくのは時間だけではない。自分の人生がまさに流れているのだ。いてもたってもいられず、その場から写真と一緒に携帯でメッセージを送った。

「Seize the day!」「Seize the moment!」

時間を無駄にしてはならない。今できることに精いっぱい打ち込もう。「艱難汝を玉にす(艰难困苦,玉汝于成)」というように、困難であればあるほど、人間にとっては成長のチャンスとなる。功利的な社会風潮の中でとかく忘れられがちだが、結果が大事なのではなく、過程こそ学びの場であることを強調した。

この間、新型コロナ感染の状況を含め、ネットのニュースを追いかけ、五輪の動向を注視し続けた。感染拡大による選手への負担、各種参加者の健康への懸念から、延期の決定は至極当然で、合理的だと思う。場合によっては生命にかかわることなので、各国とも異論はないはずだ。残念なのは前後のメディア潮流だ。決定が出る前は、実施に否定的な声があふれ、決まった途端、微に入り細に入りデメリットや損失を詮索し始めている。

24日、新華社が安倍首相とIOCバッハ会長の電話会談について報じた第一報の中で、

「(両者は)こうした混乱の中、東京五輪が世界の希望の灯台となり、五輪聖火が世界が今置かれているトンネルの終点を照らす太陽となり得ると述べた(在这个动荡的时期,东京奥运会能成为世界的希望灯塔,奥运圣火能成为当前世界所处的隧道尽头的曙光)」

※IOC公式サイト原文
「We also agreed that the Olympic flame will stay in Japan, as a symbol of our commitment, and also as a symbol of hope. We will also keep, for these symbolic reasons, the name Olympic Games Tokyo 2020.
We both expressed the hope that in the end, next year, these Olympic Games Tokyo 2020 can be a celebration of humanity, for having overcome this unprecedented crisis of the COVID-19 pandemic. In this way, the Olympic flame can really become the light at the end of this dark tunnel the whole world is going through together at this moment」

と伝えた。日本で果たしてどれほどこの部分が伝えられているのか疑問である。

いつも学生に言っていることがある。この世には二種類の人間がいる。

一つは、逆境にあって自分が何をすべきかを知っている人、こういう人はふだん言葉少なだが、人としての道、些細なことの価値を心得ている。他人の気持ちを思いやり、一歩一歩成長し、最後は周囲に元気をもたらす。

もう一方の人は、何をしてはならないかだけを気にかける。ふだん弁は立つが、行動が伴っていない。口先では大きなことを言っているが、実際は、自分の利益しか考えていない。そして、してはならないことの範囲をどんどん広げていって、周囲のやる気まで奪ってしまう。

大事は小事の積み重ねでしかない。少しずつやるべきことを続けていけば、きっと希望の明かりが見えてくる。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2020年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。

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加藤 隆則
汕頭大学新聞学院教授、元読売新聞中国総局長

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