コロナショック、過去最大のバラマキに意味はあるのか?現金給付という魔性とその歴史

2020年03月29日 06:00

給付金という名の現金争奪戦:綱引きは今も昔も変わらず

政府による新型コロナウイルス蔓延の対策の一環として現金給付を検討する動きを巡り、様々な声が上がっている。

官邸サイトより:編集部

当初、2009年リーマンショックのときには12000円の定額給付(こども、高齢者は20000円)を全国民に行ったことに倣い国民一律給付という案からスタートし、その金額も5万円から20万円と様々で、さらには、消費喚起のためのお肉券、お魚券といった特定の業界をターゲットにした案が浮上し、打撃の大きい飲食、観光向けのクーポン券、消費税減税など様々な案が検討されている。

デパート商品券だ、肉券だと大騒ぎしてけしからんという意見があるが、私に言わせれば今に始まったことではない。金をばらまくときというのは常にこういうものだ。

業界団体にすれば、乗り遅れないようにと業界の要望をもって永田町に押しかけ、少しでも業界の為になればと各業界が動き出すのは当然のことで、それ自体は業界の動きとして何ら批判されるべきことではない。

一方で頼られている政治家は恩を売りたいから躍起になる。ここぞ政治家の腕の見せ所、降って湧いた利権の差配をしたいと思う政治家も多いし、実現の可否はともかく「動いた」という実績作りに励んでいる感もある。

ただ、この構図は今に始まったことではない。これまで熾烈な選挙を戦い抜いてきた議員にとっては、地元の商店主の声が一番大きい存在(票田)だった。選挙になれば商店街の店主に頭は上がらないし、何より地元経済の振興の為に汗を流す姿は多くの有権者に歓迎される。その為、これまでのバラマキは、幅広く地元の商店に還元できる給付制度がとられてきただけのことだ。地域振興券しかり、プレミアム商品券しかりだ。

違うのは、今回は特に大型で、どこも切実な現状を抱え、全国百貨店協会をはじめ各種業界団体がバラマキに乗り遅れまいと声を上げたことが現金争奪戦へと発展しているに過ぎない。

安直なバラマキ政策は繰り返される 

こうしたバラマキには歴史がある。1999年に行われた地域振興券がそのはしりだ。バブル崩壊後の景気浮揚対策の一環として公明党の強い要請で、一律3万円の給付、総額4兆円という案からスタートし、最終的には子育て世代と高齢者、生活保護世帯など一定の条件下で一人2万円の地域振興券として6000億円余りバラまかれた。当初からバラマキという批判も多く、その後の内閣府の分析からも消費喚起効果は極めて限定的だったという結果に終わっている。

しかし、歴史は繰り返す。2008年、リーマンショックの緊急経済対策の一環として、一人1万2000円(こども、高齢者は20000円)の定額給付金が給付された。こちらは全国民を対象にしたケースだ。ちなみにときの総理は現在の麻生財務大臣である。内閣府の後追い調査(平成24年内閣府政策統括官による分析結果)によると地域振興券より効果はあったとするものの受給額の25%程度の消費喚起効果しかなく想定を下回るものだという結果に終わっている。

結局、限定給付にせよ、一律給付にせよ、それ程大きな消費喚起効果が上がらないことは実証済みであるにもかかわらず、今回の給付には「額は大きければ大きいほど良い」との発言が飛び出すほど政府も極めて前向きだ。

ちなみに、大型のものはこの2度しかないが、類似するものとして、消費税増税の緩和策の一環として今も行われているプレミアム付商品券が挙げられる。こちらも対象は住民税非課税世帯と子育て世帯に限定されており、現行の制度は2万5000円分の商品券を2万円で購入することができる。ちなみに2015年に実施されたときは12000円分の共通商品券を10000円で購入できるという制度だった。

一度目は地方創生の一環で地域経済の活性化を狙ったもので近所の商店、スーパーやイオンといった大型店でも使えるというもので、言うなれば、小売、飲食、宿泊業等を対象にした小型のバラマキで、地域振興券のミニバージョンとも言える。商店主は多少の臨時収入が入るのでありがたいことかもしれないが、結局、一番恩恵をこうむるのは全国チェーンの大型店舗に特需が起きただけのことで、プレミアム商品券で景気浮揚に貢献したという話は聞かない。

ふるさと納税は高所得者向けのバラマキ制度だった

ついでに言わせてもらえば、例のふるさと納税も実はバラマキの類だ。ふるさと納税の質の悪さは群を抜いている。納税という言葉に惑わされているが、あれは高所得者ほどたくさん返礼品が手に入るという、高所得者優位の還元セールだ。今回のバラマキ論争でも所得制限を付けるべきといった低所得者ほど救済が必要だという議論をしておきながら、ふるさと納税だけは巧妙な手口で実質的には還元(給付)されている。税収の半分を返礼品に使い、全体でみればトータルの税収は半分に減る。

高級食材の「返礼品」が問題視されたふるさと納税(画像はイメージです。写真AC=編集部)

こうしたバラマキ施策は、政権の支持率向上効果や一部から熱烈な支持もあり、これも繰り返し行われている。

ただ、「バラマキ」という言葉は否定的な表現だが、否定的になるかどうかは、明確な効果を伴うかどうかである。よく混同されがちなのは、公共投資や教育の無償化、民主党政権下の高速道路の無料化などで、これらもバラマキという目され方をするが、一斉給付とは少し意味が異なる。

大型の公共投資は間違いなく一定の効果があることはこれまでの経済でも実証済みだし、教育の無償化のようにバラまいても明確な政策意図と効果が十二分に見込まれるものはバラマキとは呼ばない。正直、高速道路の無料化は判断が分かれるところだが、全国一斉実施時も、東北大震災の東北道開放時も、確かに全国へ車で出かけるファミリーなどが大幅に増え、地域経済に一定の効果があったことは認められる。

緊急事態こそ予算編成は雑に。所得減世帯への給付が有効

さて、今回の現金給付に話を戻そう。「現金なら貯蓄に回る為消費喚起にはつながらないので商品券での交付が望ましい」という声がもっともらしく聞こえてくるが、本当にそうだろうか?社会全体がこの急激な景気の落ち込みで、先行き不安が大きくなっている中、「せっかく貰ったからパーッと使おう」という気分になるだろうか。給付がそのまま消費に回るとは到底思えない。そんな中商品券が給付されても、商品券が給付された分、手持ちの本来消費に使うはずの現金を貯蓄に回そうとするだけのことでないか。

結局、現金給付であろうが、商品券給付であろうが、バラマキの効果は極めて限定的だとみるのが妥当だ。それよりも消費意欲を高める為には、原点に立ち戻って考えれば、社会全体の雰囲気として失業リスクがなく、景気が良くなっていくという感覚を共有させることが何より大切なのだ。

今語られているのは、コロナの直接的影響の有無だが、実はコロナの影響を受けていない事業者はほとんどいない。直接的影響がない事業者でも、その影響を甚大に受けている取引先を抱え、支払いに対する不安と場合によっては連鎖倒産のリスクを実は抱えている。想像以上にこの影響は大きい。

こうしたことも勘案すると、コロナショックによる悪影響を最小限に留めることにこそ最大限予算を割くべきで、納税の猶予や事業所への大型の補助金(特に従業員の雇用確保と給与に関するもの)が優先されるべきなのだ。その上で現金給付ということで考えれば、3月26日に発表された実質的被害を被る所得減世帯に対する限定給付方式は現物給付という選択肢の中では一番納得感のある給付方式ではないだろうか。

ただ、震災やリーマンショックという未曽有の事態に見舞われると、緊急事態ということも相まって予算の精査が極端に甘くなることは要注意だ。国民全体が「大変だ、大変だ」と思っていることと短時間での意思決定が迫られる為、大胆な予算編成に対してもほとんど異論が出ないうちに執行され、緊急出動と称して通常では考えられない予算が通るものだ。そして原資はほとんど国債で賄われることになる。

東日本大震災の予算付けも今思えばゆるゆるだったが、当時そんなことを言える空気感はなかった。そういう意味では、今こそ国会議員の予算審議はもちろんのこと、また我々も注意深く見守る必要がある。

「何もせずとも現金がもらえる」という甘い誘惑、でも原資は我々が拠出する税金だということも忘れてはならない。

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村山 祥栄
前京都市会議員、大正大学客員教授

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