新型コロナが変えた欧州の「犯罪図」

長谷川 良

オランダのハーグに本部を置く欧州刑事警察機構(ユーロポール)は27日、「欧州に新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの犠牲者が出てきて以降、新型コロナへの国民の不安、恐れを悪用した犯罪が急増してきた」と警告する報告書を公表した。

ユーロポール報告書「組織犯罪グループは新型コロナ(covid-19)危機を利用してどのように利益を得ているか」

報告書は「組織犯罪グループは新型コロナ(covid-19)危機を利用してどのように利益を得ているか」というタイトルで、新型コロナが欧州で感染を広げ、多くの犠牲者が出てきてから、通常の犯罪件数が急減する一方、新型肺炎に効果的という宣伝文句で治療薬、薬品の偽造品取引、サイバー犯罪が増えてきたという。

中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスが3月に入り、イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどで猛威を振い、欧州国民は新型コロナへの不安と恐怖を感じ出してきた。加盟国は次々と出入国を制限する一方、国民には外出禁止を要請し、多くの人々が集まるイベントを中止、ないしは延期してきた。

すなわち、欧州域内の人とモノの自由な移動は著しく制限されてきたわけだ。その結果、域内で暗躍してきた組織犯罪グループの犯罪にも大きな変化が生じてきたというわけだ。

例を挙げて説明する。新型肺炎が拡大する前は、人々は自由に外出し、イベントを享受し、家を留守にする機会が多くあったので、犯罪統計の中でも住居侵入窃盗件数はどの国でも最も多い犯罪だった。それが、新型肺炎の拡大後、外出が禁止される一方、ホームオフィス、在宅勤務に従事する人々が増え、自宅にいる機会、時間が急増した。その結果、経験豊富な窃盗犯罪人も人が住み、働いている住居に侵入して窃盗する勇気(?)がなくなってきたわけだ。

欧州の最大の感染国・イタリアでは3月1日から22日の間、前年同期比で64%、犯罪件数が急減したという。イタリア内務省によると、同期間の犯罪総件数は約5万3000件だが、麻薬犯罪、児童虐待、性犯罪はいずれも急減した。同じ傾向はスぺインでも見られる。性犯罪は前年比で69%減、住居侵入窃盗件数72%と急減。もちろん、路上犯罪も急減している。

新型コロナの感染拡大後、欧州国民の生活スタイルは急変した。それを受け、犯罪グループが新しい情勢にマッチした犯罪に力を入れ出したとしても不思議ではない。具体的には、詐欺、サイバー犯罪、偽造犯罪が急増してきたわけだ。

それでは、なぜ、詐欺や偽造犯罪が増えてきたのか。新型ウイルスが拡散し、感染者が急増することで、欧州の国民は不安と恐れを感じ、コロナウイルス感染を防ぐ防御服、特定の医療品、消毒液、マスクへの需要が急増していった。

報告書によると、偽造の防御服、医薬品の売買が急増し、域内で3月、3万4000個の医療用偽造マスクが押収されている。新型コロナウイルス対策に効果的ということで、 抗ウイルス薬、マラリア治療用クロロキン、ビタミンプレパラートの偽造品が売り出されている、といった具合だ。

ユーロポールによると、欧州の企業が660万ユーロ相当の防御服と消毒剤をシンガポールの会社に注文し、代金も支払ったが、商品は送られてこなかった、という犯罪があった。欧州の薬局協会や医薬品メーカーは企業に偽の医療品には注意するよう緊急アピールをしている。

組織犯罪グループはオンラインを通じて潜在的顧客を探し出し、偽造医療薬品などを密売する一方、さまざまなトリックを駆使して詐欺犯罪を行っている。多くの人々が自宅で仕事をするが、その際、安全対策が十分ではないコンピューターを利用することもあって、サイバー犯罪の犠牲となる機会が増えてきた。

ちなみに、新型肺炎が拡大した後、フェイクニュースが増加してきた。人々の不安を煽る一方、政府の新型肺炎対策の内容をミスリードするなどが増えてきた。オーストリアのネーハマー内相は、「新型肺炎ではソーシャルネットワーク(SNS)で国民を扇動するニュースが流されている。国民は冷静になって、それらのフェイクニュースに騙されないように」と繰り返し警告を発し、フェイクニュースを流した人間は厳罰に処すると発表している。オーストリア通信は15日、フェイクニュースを意図的に流した2人が逮捕されたと報じた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。