「森友問題」再調査の必要性はない

遺族による国家賠償請求訴訟提起

所謂「森友問題」の「決裁文書改ざん」に関与して自殺したとされる元財務省近畿財務局職員の遺族から、今般、国と佐川宣寿元財務省理財局長に対し、1憶1000万円の損害賠償を求める国賠訴訟が大阪地裁に提起された。

訴状の詳細は明らかではないが、佐川局長が直接又は間接に当該職員に対し、違法な「決裁文書改ざん」を指示したことにより、当該職員をしてこれを苦にして自殺に至らしめた国家賠償責任を問うものとみられる。

佐川宣寿氏(財務省理財局長時代、衆議院インターネット中継より)

国家賠償訴訟とは何か

国賠訴訟とは、「公権力を行使する公務員が故意又は過失により他人に損害を加えた場合には、国がこれを賠償するものとし、当該公務員に故意又は重大な過失があれば、国が当該公務員に対して求償する制度である」(国家賠償法1条)。

したがって、当該公務員には国賠訴訟上の「当事者適格」はないから、佐川局長に対する請求は却下ないし棄却される。それでも、本件国賠訴訟において国に損害賠償責任を認めさせるためには、佐川局長の故意又は過失の存在について原告である遺族側に主張立証責任がある。

本件国賠訴訟の最大の争点

本件国賠責任の要件である「故意」又は「過失」による違法行為とは、本件「決裁文書改ざん」が「違法」であることを認識し又は認識が可能であるにも拘わらず、当該職員に「改ざん」を直接又は間接に指示した違法行為を意味する。

本件「決裁文書改ざん」については、財務省による内部調査の結果、公文書管理上の「不適切性」が認められており、佐川局長をはじめ関係者に対する行政上の懲戒処分も行われている。したがって、訴訟上は佐川局長について「不適切性」にとどまらず、「違法性の認識」があったかどうかが最大の争点となる。

よって、本件国賠訴訟では、「決裁文書改ざん」の「違法性」の有無及び程度、「決裁文書改ざん」の指示と「自殺」との「因果関係」の有無及び程度、佐川局長の「違法性の認識」の有無及び程度、佐川局長による「指示」の有無及び程度、などが重要な争点となる。原告が勝訴するためには、これらの要件事実について原告である遺族側に主張立証責任がある。

裁判所による和解勧告に従い、国が遺族に相当の見舞金ないし賠償金を支払い訴訟上の「和解」をする可能性も否定できない。しかし、国が法的な損害賠償責任を全面的に争えば訴訟は予断を許さず長期化するであろう。

裁判所による請求認容の可能性

しかし、国が「和解」をせず、全面的に争った場合でも、本件事案は、刑事手続きでは「不起訴処分」となったが、民事手続きでは刑事手続きと同等の「厳格な証明」は必ずしも要求されない。事案の内容や原告と被告による主張立証の強弱、利益衡量などで勝敗が決まるのが民事手続きである。

したがって、財務省の内部調査の結果、「決裁文書改ざん」の不適切性による佐川局長をはじめ関係者の懲戒処分が存在することは原告側に有利な事実であり、賠償額の多寡はあるものの、裁判所により原告の請求が認容される可能性は否定できない。

国会などによる「森友問題」再調査の必要性はない

野党は、遺族による本件国賠訴訟提起を奇貨として、早速「森友問題合同再調査委員会」なるものを立ち上げ、いわゆる「森友問題」を蒸し返している。安倍政権打倒のための「政局」にすることを狙い、自殺した職員の「遺書」「手記」「ファイル」等の内容は「新たな事実」であると主張し、安倍政権に対して第三者委員会による「再調査」を執拗に要求している。

自殺した職員の遺書を特報した週刊文春

しかし、自殺した職員の「遺書」「手記」「ファイル」等の内容は「新たな事実」とは言えない。なぜなら、それらの「事実」は、すでに市民団体等から背任・有印公文書変造・同行使・公文書毀棄等の告発を受理し捜査を遂げた「第三者機関」である大阪地検特捜部で取り調べが行われているからである。

そして、それらの「事実」をも含めて不起訴処分が行われている。そのうえ、上記の「遺書」「手記」「ファイル」等には自殺した当該職員の主観的認識や推測も含まれていることは否定できず、すべてが客観的事実であるとは限らない。よって、「新たな事実」が存在しない以上は、「再調査」の必要性はない。

大阪地検の本件「不起訴処分」の理由

なお、大阪地検は2019年8月9日佐川局長らの不起訴処分の理由について、「必要且つ十分な捜査をしたが、起訴するに足りる証拠がなかった」と説明した。

法的に推測すれば、本件「決裁文書改ざん」は、もともと近畿財務局作成に係る本件「国有地取引に関する決裁文書」なるものには、本件国有地取引の内容との関連性や重要性に乏しい様々な政治家らによる働きかけ等の「余事記載」部分が多く含まれていたため、佐川局長ら財務省による当該部分の「抹消」「改ざん」には、刑法上の「可罰的違法性」が乏しいと評価されたためと思料される。