オンライン診療実現への道程:感染拡大は防げるのか

中田 智之

ついに厚労相がオンライン診療を初診から認める検討に入ることを表明した。長らく「初診は対面が前提」という立場を崩さなかった厚労省・医師会だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて議論が大きく前進した。

(参考)オンライン診療、初診解禁を検討 厚労相が表明 ― 日本経済新聞

それを受けて議論がよりスムーズに進むように、学生時代のアルバイトとして受付業務も担当した経験も踏まえ、論点整理をしていきたいと思う。

1.保険証確認、一部負担金支払いに関して

既に導入されている「初診以外の」オンライン診療について大きな混乱がないのは、初診として病院に来院した時点で、健康保険証の確認を含めた住所等個人情報の取得ができたからだ。

サラリーマン等安定した雇用であれば意識したことないかもしれないが、健康保険証は転職などでしばしば切り替わることがある。転職直後などで健康保険証がない状態で来院したり、期限切れの健康保険証を提示したりということもあり得るということだ。

またオンライン診療のみで一連の治療が完了する場合も考えると、オンライン決済や銀行引き落としなど、一部負担金をどのように支払っていただくかも論点となる。

マイナンバーカードのように一元化された情報管理が望ましかったが、残念ながらその普及は限定的だ。

そしてこのような情報通信に関しては情報漏洩に関するセキュリティが必ず話題になる。既に各医院の電子カルテなどは特殊な暗号化と随時バックアップの体制で運用されている。今からオンライン診療に関して同等レベルの体制を整えるとなれば、それなりの資金と時間の投資が懸念される。過剰なセキュリティへの要求が普及を遅らせることのないよう留意するべきと考える。

2.オンライン診療にかかる医師人件費、医療リソース

オンライン診療には以下の区分がある。

オンライン診療:医師が診断から処方まで行うフルセットの診療行為

オンライン受診勧奨:医師が診察を行い、受診すべき診療科を選択する等最低限の医学的判断を行うもの(処方はできない)

遠隔健康医療相談:医師か医師以外の者が、一般的な医学情報の提供をすること。相談者の個別の状態を踏まえた医学的判断を行わない

(参考)オンライン診療の適切な実施に関する指針 ― 厚生労働省

処方も含めたフルセットのオンライン診療を実現するとなると、リアルタイムで医師とやりとりすることとなる。この時、画面の向こう側の医師は相応の時間拘束がかかることになる。

医師の平均時給は5000円と非常に高いので、各医院も必要最低限の医師しか配置しない。日常診療に従事している医師が、片手間にオンライン診療できるわけではないので、対応時間や当番を決める、あるいは新たに担当医師を雇うことになる。

聞くところによると欧州では「医者に会うために、立ちはだかる何人もの看護師にたいし、自分はなぜ医者に会う必要があるか説得し打倒さないとならない」ということである。

気軽に医師に会える日本の医療制度というのは素晴らしいことだが、その背景には平均時給5000円にも上る医師の人件費がかかっていること。それが社会保険料による15%にも及ぶ給与の天引きと、不足分に対する赤字国債によって支えられていることを意識したい。

3.病欠の根拠に診断書を求めない社会を

なぜオンライン診療がいま検討されているかというと、以前から議論になっているとおり軽症者の病院利用が多いからだ。

その理由は病欠に対して会社に診断書の提出が求められるという無意味な慣習が原因だ。

弁護士などの見解においても長期病欠でない限り診断書は不要であるとされており、仮に就労規定などに書かれていても法的根拠に乏しいと位置付けられている。

一方でこれは「慣習」や「空気」といった不文律であるという側面も大きい。しかし病欠時の診断書の提出の有無が人事評価や出世に影響する可能性がわずかでもあるとするならば、軽症者の病院受診は止められないだろう。

今般も風邪のような症状があっても、新型コロナウイルスによるものだという診断がつかないので出社を促されたという声も聞こえてきた。これはPCR検査を強く要望する背景でもあると考えている。

たとえ「不文律たる空気」であっても、結果として医療リソースを損ない、病院における二次感染のリスクを高めるのではあれば、それは立派なインフォデミックの一部であり、具体的かつ実効性のある対応が求められるのではないだろうか。

(参考)新型コロナで注目「インフォデミック」:情報の感染対策に遅れるな

まとめに替えた折衷案

以上のような状況の中で、新型コロナウイルスの蔓延に対抗するためには、速やかに軽症者の医療機関への受診を制限する必要がある。しかしフルセットのオンライン診療に関しては法的整備から現場の体制構築まである程度の時間と投資を要するだろう。

そうであれば、以前指摘したとおり遠隔健康医療相談としてチャットボット等を活用した、医師を介在させない事前診査の部分を発展させるべきだ。

(参考)いますぐ実現可能な遠隔医療。患者相談サイトの経験から

米国疾病管理予防センター(CDC)などにおいてもオンラインテストが実装されており、疑わしき症状が回答された場合は、連絡先などが表示されるようになっている。

(参考)Testing for COVID-19 ―CDC

東京都ではLINEを活用したサービスを実施しているが、@LINEへの登録などが面倒なので、特設サイトなどを作りブラウザ上で動くようにしたほうが良いだろう。

このオンラインテスト上にて自宅待機が推奨される場合、会社提出用の診断書PDFファイルが自動作成されダウンロードできれば、軽症者の受診が抑制されるのではないか。こういったオンライン上での公衆衛生活動に、医師会や学会の主体的な関与が必要だと考えている。

中田 智之 歯学博士・歯周病認定医
ブログやアゴラで発信する執筆系歯医者。正しい医学知識の普及と医療デマの根絶を目指している。地域政党「あたらしい党」党員