決戦を迎える原油戦争

岡本 裕明

原油減産を巡る交渉は4月9日頃に何らかの決着がつくのでしょうか?水より安い原油価格はあり得ない、と私のような一般人でも思っている世紀の大バーゲンは終局となる可能性はあるかもしれませんが今現在もその行方は混とんとしています。

(写真AC:編集部)

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ごく簡単にいきさつを説明すると3月9日に開催されたOPECプラス(OPEC加盟国プラスロシア)において原油の減産について合意に達せず、ロシアが席を蹴ってしまい、「俺は好きなだけ原油を産出する」と言い放ちました。それを受けてサウジアラビアも「お前がそうするなら俺もそうしてやる」と仁義なき戦いに突入、その間、原油価格はあっという間に半値以下に下がり、遂にバレルあたり20ドルを割るような状態になります。サウジもロシアも産油コストは20ドルをはるかに下回るので赤字にはならないのですが、双方ともその収益は国家を支える資金になるため、当初の国の財政が大幅に狂ってしまうのです。更にOPEC加盟の他の弱小国からは赤字続出で悲鳴が上がります。

ではなぜ、ロシアとサウジは無謀な行動に出たかといえば双方の共通の敵はアメリカのシェールオイルでありました。彼らを一度は潰したはずだったのに低コスト化や効率化という武器を備えて再び市場を荒らし、今ではアメリカを主要原油輸出国まで押し上げたのです。これに不満を持つサウジとロシアはある意味「出来レース」のような演出を行っているのです。その効果は十分あり、すでにアメリカの中小のシェールオイル会社は続々と倒産しています。

これを放置できないとみたトランプ大統領がその仲介役を買ってロシアとサウジの間を取り持つ工作をしています。今般行われるテレビ会議はその成果であります。

ではその行方でありますが、私は早ければこの週末にも合意する可能性すらあると思っていましたが、戦略的交渉、および減産協調をOPECプラスのみだけでなくかなり広範囲の非OPEC加盟国にも声がかかっています。アメリカもその減産に協力するのかも注目点です。主要産油国のカナダは減産合意に積極的であります。今のところ9日が決戦日となっています。

予想ですが、何らかの減産合意には達するとみています。それが目標とする日量1千万バレルなのか、もっと多いのか、それ以外のスキームなのか、このあたりがキーポイントになると思います。トランプ大統領は関税という得意技をちらつかせています。

すでに合意を期待する向きが原油先物を買い上げており、一時29ドル台まで回復していましたのでこの数日でほぼ5割上昇したことになります。会議まであと数日あるので乱高下し、あとは会議の結果次第というシナリオとなりそうです。

原油は差別化できないコモディティでありますが、各国産油コストが違うこと、産油事業を通した国家財政への影響度、関連産業への影響などその尺度は極めて広くなっています。カナダドルは資源通貨と称され、資源価格の動向で売られたり買われたりしますので3月9日の減産合意失敗で大きく売られ、国の経済力にも陰りが見えてしまうのです。

今回の減産に意味があるのか、という見方もあります。なぜ、世界で価格カルテルを結ばねばならないのか、自由貿易の原理からすればおかしいじゃないか、という意見もあります。確かにそうでしょう。ただ、資源の無駄遣いは誰のためにもなりません。アメリカでは安いガソリンがライトトラックブームを引き起こしました。でもそれは何か違います。ましてや飛行機が飛ばないこのご時世に原油は無制限に供給し放題なんて非常識にもほどがあるというところでしょう。

日本の方にとって安いガソリンを楽しめるのはもしかしたら長くないかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月6日の記事より転載させていただきました。