コロナ危機克服が人を成長させる

鈴木 寛

今年は桜の見頃が例年より早く訪れましたが、新型コロナウイルスの影響で世の中の花見ムードは消え失せました。私も半世紀以上生きてきて、これほど緊張感に包まれた春を迎えるのは初めてです。

緊急事態宣言で歩行者の姿が消えた銀座(編集部撮影)

日本は当初抑え込んだように見えましたが、3月下旬から感染者が急増。4月7日には初の緊急事態宣言も発令されました。一説には、中国から入ってきたウイルスの第一波が失速した後、欧米からの帰国・入国者が持ち込んだ亜種のウイルスが第二波として広がっているという指摘もあります。

そのあたりは確定的な分析を待ちたいところですが、新型コロナウイルスは、第2次大戦後に人類が直面した感染症としては最強の難敵であることは確かです。難敵である所以は、発生期には正体がわからず、有効な薬も治療法も見出せない、ようやくおぼろげながら敵の姿が見え始めると、今度は新たな症例も報告される…。

「想定外」は医療・行政の現場だけではなく、企業も同様です。顧客の動きが急減し、従業は在宅勤務せざるを得ない。資金繰りも過去になく悪化する…存亡の危機に瀕している企業も続出しています。コロナ危機は、まだ出口が見えない分、リーマンショックや3.11よりも経済的な影響は深刻です。

3.11から10年近く経ち、若い社会人は当時の修羅場を知らない人も増えてきました。若手は、このコロナ危機をどう受け止めればいいのでしょうか。

大前提として有事は、平時では当然に思っていた枠組みが崩壊します。毎日がトレードオフ、矛盾、コンフリクト(葛藤)の連続であり、「正解のない難問」に向き合い続けることになります。コロナ危機でいえば、「ロックダウン(都市封鎖)をすれば感染拡大は抑えられるが、経済が死んでしまう」といった問題が典型例。そういう中で自分の会社の生き残り策を考えていかねばなりません。

OECDが2030年に向け、近未来を担う人材に要求される能力として掲げたのが、

①新しい価値を創造する力
②緊張とジレンマの調整力
③責任をとる力

…の3つでした。②はまさにいまの修羅場で経験を積んでいる局面です。ここを突破し、次に進むための①は、個人的な力だけではなく、他者との協力・協働を通じて見出していくものです。そして③は文字通りの責任を取ることだけではなく、自らを客観的に評価し、知的に成熟していくことです。

危機を克服した時、人も組織も社会も成長します。ポスト3.11の時は、官民の若手リーダー候補が東北に集まり、今も活躍しています。コロナ危機は治療法確立まで長期化しそうですが、この苦難をバネに新たな逸材が出てくると思います。