金融庁協議会声明リリース-それでもやはり6月株主総会は延期すべきである

ここ3日間ほど、たいへん多くのアクセスをいただき、またメールを含めて様々なご意見を頂戴しまして、厚く御礼申し上げます。自身の法律家として浅学な点も素直に反省しております。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

今朝(4月15日)の朝日新聞経済面の記事「株主総会どう対応-決算難航・有価証券報告書は期限延長」を読み、筑波大学の弥永先生も、基本的には同じような問題意識をお持ちであることを知り、ややホッといたしました。ただ、弥永先生も(解釈論ではなく)「時限立法で3カ月より延ばすことが望ましい」とされ、さすがに超法規的措置として解釈できるとはおっしゃておられませんでした。結局のところ、本日金融庁(企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会) から声明がだされたとおり、続行決議によって継続会、もしくは完全な延期という方式で(株主総会の)延長問題に対応することが推奨されています。

しかし6月に定時株主総会を開催する上場企業は(おそらく?)2340社ほどに上ると思いますが、中小の上場会社も含めてイレギュラーな延長手法を適法にこなせるのかどうか、たいへん不安を感じます。ましてや、在宅勤務制度が浸透するなかで、たぶん2班か3班に分けて準備をしなければならないので(関係者のひとりが感染した場合は、そのチームの方々は全員自宅待機となりますので)各上場会社にそんなに総会関係者がいらっしゃるのか、不安をおぼえます。

さらに、物理的な問題とは別に、理屈の問題としても不安があります。本日の連絡協議会声明では、6月総会の「継続会」を実施することで、なんとかコロナ禍の定時株主総会を乗り切ることが企図されていますが、私はやはり2340社の上場会社一律に推奨するには大きなリスクがあると考えます。たとえば昨日のエントリーに対して(機関投資家の立場から?)tyさんがコメントを寄せておられますので、ご紹介したいと思います。(tyさん、承諾も得ずに本文でご紹介することをお許しください<(_ _)>)(以下、コメント引用)

新型コロナ(略)協議会の声明文では、決算が間に合わない企業に対して延期と継続会の2つの選択肢が提示されました。しかし計算書類が間に合わない企業が継続会を選択した場合、企業は事業報告も計算書類もおそらくは短信すらない状況で株主に対して議決権行使の判断を迫ることになります。(監査報告書なしの事業報告と計算書類を招集通知を添付する企業はあるかもしれませんが…)

過去の継続会の事例では、継続会となることが確定している場合でも、書面行使や電子行使の締め切りは当初の総会の前営業日までであり、継続会で事業報告や計算書類が提出されたとしてもそれに基づき議決権行使判断を変更する事はできません。株主からすると企業の前期の業績も事業報告の内容もわからない状況で配当や役員選任議案の賛否を判断しろと言われても株主は判断材料がないので判断できません。BSなしに剰余金処分の判断をする投資家、PLなしに取締役選任の判断をする投資家、会社役員の状況・株式の状況・主要な借入先の状況なしに社外役員選任の判断をする投資家は考えられません。「責任ある機関投資家」としてinformed decisionが求められる機関投資家はどうすればよいのでしょうか。

通常の状況であれば会社の情報開示の問題として関連議案すべてに反対する選択もありますが、それが適切だとは考えづらいです。一方で非常時なので判断材料はないが賛成しましたという説明ではアセットオーナーはその立場上納得するわけにはいきません。

声明文を読み頭を抱えている機関投資家の姿が目に浮かびます。

(コメント引用終わり)

私も昨日来、まったく同じことを疑問に思っておりました。6月に開催される株主総会では、会社側から計算書類も事業報告も提出されないままで「さあ、役員選任議案に賛成しろ」と株主は勧められるわけです。しかし株主は、役員選任の参考となるべき事業の通信簿もないままに取締役の選任(再任)を決めなければいけないのでしょうか?

せめて役員の顔と声だけでも聞きたい!と思っても、「いえいえ、コロナ禍ですから、出席は控えていただき、事前に書面もしくはネットで議決権を行使してください。私たちはバーチャル株主総会でやりますから」と言われてしまいます。出席は控えろと言われつつ、通信簿もないままに役員選任だけはイエスと言え、というのは、あまりにも株主を侮辱していることにはならないでしょうか?(tyさんがおっしゃるように、機関投資家の背後におられるアセットオーナーの皆様に、この状況で議決権行使をしたら、機関投資家の皆様はどのように説明責任を尽くせばよいのでしょうか?)

tyさんがご指摘のとおり、過去には継続会開催のケースでは、監査を経ていない事実上の計算書類や事業報告が参考資料として出される場合があり、これを参考に役員選任議案に賛成票を入れてください、と会社が株主にお願いするケースも考えられます。しかし、これは個別企業がやむにやまれず継続会方式を採用する場合(過去の事例)ならいざしらず、一律にこのような方式を採用するとなれば、もはや会計監査も監査役監査も不要であると国が認めたに等しいものと言えます。これでは不適切な会計処理を多発させることになり、到底許容できない運用です。

では、とりあえず決算期末の基準日の効力を残すためだけに、6月総会を開催しておいて、数か月後の継続会で役員選任議案と計算書類等の承認決議を行う、議決権の書面行使、電子行使も継続会の直前で結構です、というケースはどうでしょうか。

しかし、これではそもそも6月に株主総会を実質的に開催したことにはならず、むしろ議決権行使や剰余金配当の基準日の効力を残すためだけの脱法行為であると裁判所から判断される可能性があります。つまり、株主総会の決議取消(決議不存在)の訴えや(基準日以降に株式を取得した者から)損害賠償請求訴訟を提起されるリスクが残る、ということです。これは会社側としてとりえない選択肢ではないでしょうか。

過去のエントリーで何度も述べたように、6月総会開催、継続会で剰余金配当の承認決議という流れは、十分にありえます。やむにやまれず、個別企業が継続会を開催するのであれば、投資家が当該会社の開示情報の信用性に注意を向けられますから、ディスクロージャー問題として扱えば足りるでしょう。しかし、これを一律にやってしまうことには大きなリスクが伴います。やはり6月総会は中止をして、延期する以外に方法はないのでは、と考えております。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年4月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。