21世紀の映画で歴史に残る名作を選んだら

365日でわかる世界史 世界200カ国の歴史を「読む事典」』(清談社・4月12日発売)では、世界の映画の歴史でのベスト100というのも選んでいる。

アメリカのこの種のものと日本での評価もだいぶ違う。そんななかで、「風と共に去りぬ」とか「ローマの休日」とかは、日本では大人気だが、アメリカのランキングには入ってこない。「風と共に去りぬ」は奴隷制度や南北戦争の描き方がリベラル派に受け入れがたいからかもしれない。

映画「風と共に去りぬ」(Wikipediaより)

と思っていたら、2019年には、韓国映画『パラサイト』がアカデミー賞作品賞を獲得したのを怒ったトランプ大統領が、「なぜ、ハリウッドは『風と共に去りぬ』のリメイクを制作しないのだ」とお怒りだったので、根強い人気があることがわかった。

私が本書で選んだベスト100はアメリカ、欧州、日本などでの評価をバランスよく考慮したものなので、映画史を勉強するにはほどいいかもしれない。

ただ、この分野でも近年のものはなかなか難しい。とくに、1990年台以降は、「名画」という感覚でとらえられるものは、少し低調かもしれない。

その原因は、「製作委員会方式」が盛んになって、その作品に制作コストをかけるなら配給収入を見込まなければいけないようになり、作家、監督の作りたいものより、ポピュリズム的に大衆迎合したものになりがちになった。

複数プロダクションの共同作業が多くなり、合意形成が必要なこともそうした傾向を助長していると言われる。CGアニメ、CGの発達で、どうしても安定した結果が望める原作もの、シリーズ化が優位になっている。

そんななかで、「21世紀の映画ベスト100」というアンケートを2016年にBBC(英国国営放送)が世界の映画監督にしたことがある。私のセレクションにも、このうちのいくつかが入っている。

①「マルホランド・ドライブ」(2001年)、②「花様年華」、③「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007年米国)④「千と千尋の神隠し」、⑤「6才のボクが、大人になるまで」(2001年米国)、⑥「エターナル・サンシャイン」(2004年米国)⑦「ツリー・オブ・ライフ」⑧「別離」(2001年、イラン)、⑩「ノー・カントリー」(2007年米国)。

映画「千と千尋の神隠し」(Amazonサイトより)

最近の傾向としては、エスニックな文化への理解が高まり、発展途上国の文化・経済水準が向上して、珍しいだけでなく、高いレベルの映画が多く制作されるようになってきた。

中国語圏では1980年代当たりから香港のカンフー映画や中国、台湾における作品が世界的にも評価を受けるようになってきた。『黄色い大地』(1984年)は、チェン・カイコーの作品で、 『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993、中国・香港)も評価が高い。『黄色い大地』で撮影監督を務めた張芸謀も『紅いコーリャン』などで知られ、北京五輪の開会式の演出も行った。

同じ頃に台湾でもニューシネマ運動があり、侯孝賢の『悲情城市』(1989年)やエドワード・ヤン(揚徳昌)監督の「ヤンヤン 夏の想い出」(2000年、台湾)が国際的評価を受けた。21世紀の映画でももっとも評価が高いもののひとつになっている香港のウォン・カーウァイ監督の『花様年華』(2001年)だ。

映画「花様年華」(Amazonサイトより)

21世紀になって流行している広い意味での冒険もののシリーズに『ハリー・ポッター』(2001年、英米)、『ロード・オブ・ザ・リング』2001年、アメリカ・ニュージーランド『マッドマックス怒りのデス・ロード』(2105年、オーストラリア・米国)がある。

CGの発達が中世の騎士物語の夢と現実を交錯するようなかたちで表現することが可能になったからこそ実現できたシリーズだと思う。

20世紀終わりから活躍して21世紀にも健在だった巨匠も多い。テレンス・マリック監督はアッシリア系のアメリカ人だ。アッシリア人とは、イエス・キリストが説教に使ったアラム語をいまも母国語とするキリスト教の小会派の信者だ。『天国の日々』(1978)などで知られるが、フランスに移住し監督活動から遠ざかっていたが、『ツリー・オブ・ライフ』(2011)でカンヌ映画祭のパルム・ドールを獲得。

フランス生まれでポーランド系のロマン・ポランスキーは、ハリウッドで『ローズマリーの赤ちゃん』で成功し、女優シャロン・テートと結婚した。しかし、猟奇的殺人事件でテートは殺された。その後『チャイナタウン』(1974/米)は絶賛されたが、少女暴行事件で保釈中にフランスに逃亡した。その後は、『戦場のピアニスト』(2002年)がアカデミー賞を獲得している。

※クリックするとAmazonページに飛びます